溺愛の檻から、逃げられない
「最低ゴミクズハイスペックすぎる顔だけヤローが。」
「……そこまで言わなくても良くない?」
睨みつけて悪態をついた私にも余裕で、なんなら少し微笑んでいる奴がむかつく。拘束されてなかったら絶対蹴りでも入れてた。絶対。
(まあハイスペックな時点で"顔だけ"ではないけど。)
「…それで単刀直入に聞かせてもらう。君ってこっち(冬華)側の人間?」
……答えちゃいけない。しゃがんで余計によく見えるようになった、奴の吸い込まれるような目に睨み返す。
目の前の男はまあ、と話し始めた。
「君が龍夏の若頭となんで揉めたかぐらいは大体予想がついてる。」
「………」
「うまく若頭と恋人になったお前は『本来の目的』を話したんだろ。……違う?」
見透かすように言う彼の口元は笑っているのに目は笑っていない。
「……あの真面目な君が自分の雰囲気をここまで変えてまでやってきたのに。まさかそこまで彼に好かれてることは君も予想外だったんだね。」
「…………。」
「やっぱりだんまりか。」
コイツに何も話すつもりはない。それにまだ手はある。
目の前の男は立ち上がると私に背を向けてこの和室の出口へ向かっていった。
(あれ。)
彼にも手はあるようなのか。私から聞き出すのは早々に諦めたらしい。