町空くんは無自覚な闇
「中学のとき、僕を不良から助けてくれた日のこと覚えてる?」
「……うん、覚えてるよ。一方的にやられてたから、思わず間に入っちゃったんだ」
「覚えてて、くれてたんだ……嬉しい」
俯いているからあまり表情が見えないけれど、顔を綻ばせているのはわかった。
「僕、あの日のことは一生忘れられないと思う……僕の世界は、あの日から大きく変わったんだ」
一生って、さすがに言いすぎだろうと思ったけれど、あえてなにも言わないでおく。
もしかして私に恩があるから、見逃してくれるとかそういう感じだろうか?
「僕は何もできなくて、本当に弱くて……でも藍原さんはいつも堂々としていて、誰よりも強くて美しい人だと思ったんだ」
町空くんはようやく私を見る。
恍惚とした瞳は私を捉えていて、もう逸らせそうになかった。
鼓動が速くなる。
これ以上、聞いてはいけない気がするのに……もう逃げられそうにない。
「そんな藍原さんを見て、僕は僕という存在がバカらしくなったんだ。でも……忘れられそうになくて、ずっと追いかけてきた」
今日も町空くんはよく話す。
私は最後まで聞くしかないのだろう。