卯月、空に舞う桜
まだ咲き切っていない桜並木を見上げれば、
3羽の小鳥が気持ちよさそうに大空を飛んでいた。
4月、大学の入学式。
何枚かの花びらは僕らを祝福するように空を舞う。
「裕也、咲良!おはよっ!」
いつもありふれた言葉でも、その言葉を口にすると心が温かくなるんだ。
「やっと大学生だね!」
桜の木下でそうはにかんだのは幼馴染の咲良(サクラ)。
フォーマルな服装の彼女の首元には色白の肌と、銀色のネックレスが見える。
僕の隣で、先行く彼女を愛おしそうに見つめるのは、幼馴染の裕也(ユウヤ)。
首元にはお揃いのネックレスがかけられていて、
日光に照らされてキラッと光るそれを見るたびに
胸がキュッと締め付けられた。
「ずっと好きだ」
人生で初めての告白は高校2年生のバレンタイン。
「好きです、付き合ってください」
そう何度も予行練習をしたはずなのに、うまく伝えられなくて、
結局勇気を出して言えた一言が「好きだ」という感情の報告。
一瞬、自分でも何を口走ったかわからなくなり、慌てて「付き合ってください」と付け足す。
「ごめん、幼馴染以上に思ったことなかった」
「……!っだ、だよね、気持ち悪いよね」
返されたその一言に、再び慌てて言葉を紡いでみる。
沈黙が訪れて、2人でいるのが気まずくなる。
「……あの、忘れていいから」
沈黙を消すように、必死に絞り出せたのはそんな一言で、
本心とは矛盾していた。
忘れてほしくない。
俺のことを意識してほしい。
まだ2月の冷たい風が吹く川岸には少しだけ根雪が残っていた。
「ばーか」
そう言ってデコピンをした裕也はいつもと変わらない、眩しい笑顔で続けた。
「無理に諦めるもんじゃねえ。
好きになるって感情、すげえ尊いんだぞ」
「うんっ、!!」
君が振り向いてくれるその日を、ずっとずっと待ってるから。
あなたと遠く離れていても、「繋がっている」と思えるから。
何が正しいのかわからない、
普通の恋ではないのかもしれないな。
あの頃のように触れたり、寄り添ったり
できなくて、
ためらってばかりの僕は、たった一人この世界に取り残されたように孤独で、切なくて。
でもただ一つ。確かなことは、
あなたを「愛している」という気持ちだけ。
毎晩のように、もう鳴るはずもない電話に背中を向けて忘れようとした。
目が覚めるたびに会いたくなるの。
2人が肩を並べて歩く姿を見るたびに、
何度も胸がギュッと締め付けられて、
苦しい。
ねぇ。僕だけなのかな。
「……颯太がそんな顔してるの見たくないんだけど」
「報われない恋なんかやめて早くあたしにしたらいいのに」
そう声をかけてくれるのは同じ学科で活動するうちに仲良くなった綾(アヤ)。
「それでも僕は、彼のことを愛しているんだよ」
そう返せば綾はそっか、とかなしい笑顔を見せる。
それでも僕の気持ちは
ずっと、ずっとあの頃から変わらないままで
どれほど隠そうとしても、忘れようとしても、
叶うことはないまま___
5月、緑 香る町
僕はもう一歩、踏み出さなければならない。