イケメン、お届けします。【注】返品不可
「そんなことでいいのか?」

「そ、そんなことって!」


庶民の楽しみ方を馬鹿にする気かと憤るわたしに、彼はペラペラと映画か小説のようなデートプランを提案した。


「郊外の美術館までドライブ。崇高な芸術を鑑賞し、予約限定のフレンチレストランで昼食。シーサイドをドライブして都心へ戻り、高級イタリアンレストランで早めのディナーを楽しみ、オペラ鑑賞。その後、夜景の見えるラウンジバーを経由して、スイートルームでくつろぎながら、甘い言葉とダイヤモンドの指輪、またはネックレスなんかをプレゼントされる……というのが、いわゆる理想の誕生日デートだろう」


彼のようなイケメンなら、ゴージャスでロマンチックで、スペシャルなデートもソツなくこなすだろう。
わたしだって、一度くらいは経験してみたい。

でも、その相手は無礼なドーベルマンじゃなく、「最愛のカレシ」というのが大前提だ。


「映画やドラマじゃあるまいし。絵も音楽も善し悪しがわからないし、分不相応なことをしても肩が凝るだけだもの」

「特別な日なんだから、いつもとはちがうことをすればいい。型にはまった日常を送っていると、人間小さくまとまるぞ」


真顔で言われ、カチンと来た。


「そりゃ、ステキなデートとかしてみたいですけど! 何をするかが大事なんじゃなくて、誰と過ごすかが大事なんですっ! どんなに素敵なホテルやお店で過ごしても、好きな人と一緒じゃなきゃ楽しくないでしょうっ!?」


わたしの剣幕に驚き、あっけに取られた表情をする彼。

イケメンは、どんな表情をしていてもイケメンだが、無防備なその表情は……豆柴には見えないけれど、シベリアンハスキーくらいには見えなくもない。


「そうだな。確かに、誰と過ごすかが一番重要だというのは一理あるな」


何度も頷く「お届けもの」に、意外と物わかりがいいのだな、なんて気を許しかけたところでとんでもない発言がその口から飛び出した。


「だから、俺と一緒なら楽しく過ごせるのはまちがいない」

「はい?」

「今日は、シラフのあかりが望む誕生日の過ごし方と酔っ払いのあかりが望む誕生日の過ごし方、両方を楽しめるプランにしよう。それなら文句はないだろう?」

「えっと……」

「ないな?」


じっと見つめられ、イケメンの眼力に抗えずに頷いた。


「……はい」

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