イケメン、お届けします。【注】返品不可
「さっさとシャワーして来い。時間の無駄だ」


命令されてむっとしたが、もしかしたらこれは夢かもしれないと思い直した。

昨夜は相当飲んだし、未だ夢の中でもおかしくない。
熱いシャワーを浴びて目が覚めれば、部屋には誰もいなかった……というオチかもしれない。


「では、遠慮なく……」


とりあえずシャワーを浴び、頭も身体もすっきりして洗面所兼脱衣所へ一歩足を踏み出し、ぎょっとした。


「ずいぶん早いな。ちゃんと洗ったのか?」


ドーベルマン……もといイケメンの「お届けもの」が、眉根を寄せてこちらを睨んでいる。

全裸の女性を目の前にしているとは思えぬ冷静な態度に、こちらも隠すのを忘れてしまう。


「……な、んでいるの?」

「歯を磨いていたからだ。健康的な老後を送るためにも、歯は大事だ」

(それはごもっともだけど……いったい、どこから歯ブラシを調達したのか気になる。気になるけど、まずは……)

「で、出てってくれません?」

「なぜだ?」

「な、ぜって……バスタオルがそこにあるからです」


肌ざわりがお気に入りの大判バスタオルも着替えも、目の前にそびえる彼の向こう側に置いてある。


「ん? これか」


振り返ってバスタオルの存在を確かめ、手に取った彼は何を思ったのがこちらへ一歩踏み出した。


「えっ」


慌てて距離を取ろうと後退りした身体に、バスタオルと逞しい腕が同時に巻き付く。

しかも、彼は意外すぎる感想まで述べる。


「思ったよりも……柔らかくて抱き心地がいいな」

「は?」


警戒心と恐怖心に震え、怯えながら見上げた途端、柔らかいものが唇に押し当てられた。


「ふっ……うっ」


逆らう間もなく入り込んできた舌に、先ほどとはちがう意味で震える。

どうしてこんなことをされているのか、混乱した頭ではまったく理解できない。
理解できるのは、彼がつけている香水はムスク系で、歯磨き粉はミント味ということだけだ。

そして……。


(キス、巧い……)


獰猛な見た目と雰囲気に反し、彼のキスはとても優しく、あまりにも気持ちよい。
抵抗するどころか、ついつい応えてしまう。

このまま溶けてしまいそうだと思ったところで、唇が離れた。


「反応も悪くないな」

「…………」

「さっさと着替えろ。あかり」


< 13 / 67 >

この作品をシェア

pagetop