イケメン、お届けします。【注】返品不可
さんざんわたしをその気にさせておきながら、あっさり切り上げた彼は、甘い言葉など吐かなかったが、やけに嬉しそうな笑みを向けられて、うっかり胸がキュンとした。
そして、そんな自分に苛立った。
(い、イケメンめっ! 顔が良ければ誰でも絆されると思ったら大まちがいよっ!)
キスごときで平手打ちするなんて子どもっぽいと思い、ぎゅっと唇を引き結び、力いっぱい睨みつける。
「なんだ? もっとしてほしいのか?」
「ち、ちがうっ!」
再び顔を近づけようとした大きな身体をぐいぐいとドアの外へ押しやった。
「だから! もう歯みがき終わったなら、出てってください!」
(ここはわたしの家、わたしのテリトリーなのに、なんであっちのペースになってるのよ? しかも……ばっちり見られたし)
素っ裸なんて、恋人もしくはそれに準ずる関係の男性にしか見せたことがない。
いまさらながらに顔が熱くなり、下着をつける手が震える。
すっかり振り回されている自分にイライラしながら手抜きのメイクをし、髪を乾かして、先ほどよりはマシだが、ジーンズにシャツというやる気のない服を着てリビングへ戻る。
「……、そのあとヘアメイクも頼みたい。三十分以内に着く」
彼は、再びどこかに電話を架けていたようだが、わたしを見ると電話を切った。
目が合った途端、落ち着いたはずの鼓動が再び乱れ、カッと頬が熱を持つ。
「行くぞ」
先ほどのキスの言い訳をするどころか、どこへ、とも、何をしに、とも言わずに玄関へ向かう背をすぐには追いかけたくなかった。
どうせ今日の予定はからっぽ。
彼の言葉を信じるわけではないが、一緒にいて退屈することはなさそうだ。
けれど、簡単について行っては彼の優位を認めてしまようで、癪に障る。
じっとリビングで立ち尽くしていると、玄関で靴を履いた彼がくるりとこちらを振り返った。
「どうした、あかり?」
柔らかな声で名を呼ばれ、うっかり差し伸べられた手を取りたくなったが、堪えた。
「あなたの名前、聞いてないんですけど」
「大きいに上で、オオガミだ。名前は、夜の始まりを表す『宵』、ショウだ」
(ふん。オオガミじゃなく、オオカミの方がお似合いよ)
にっこり笑って、わざとまちがえて復唱する。
「オオカミさん?」
「いや、オオガミだ」
「オオカミ?」
そして、そんな自分に苛立った。
(い、イケメンめっ! 顔が良ければ誰でも絆されると思ったら大まちがいよっ!)
キスごときで平手打ちするなんて子どもっぽいと思い、ぎゅっと唇を引き結び、力いっぱい睨みつける。
「なんだ? もっとしてほしいのか?」
「ち、ちがうっ!」
再び顔を近づけようとした大きな身体をぐいぐいとドアの外へ押しやった。
「だから! もう歯みがき終わったなら、出てってください!」
(ここはわたしの家、わたしのテリトリーなのに、なんであっちのペースになってるのよ? しかも……ばっちり見られたし)
素っ裸なんて、恋人もしくはそれに準ずる関係の男性にしか見せたことがない。
いまさらながらに顔が熱くなり、下着をつける手が震える。
すっかり振り回されている自分にイライラしながら手抜きのメイクをし、髪を乾かして、先ほどよりはマシだが、ジーンズにシャツというやる気のない服を着てリビングへ戻る。
「……、そのあとヘアメイクも頼みたい。三十分以内に着く」
彼は、再びどこかに電話を架けていたようだが、わたしを見ると電話を切った。
目が合った途端、落ち着いたはずの鼓動が再び乱れ、カッと頬が熱を持つ。
「行くぞ」
先ほどのキスの言い訳をするどころか、どこへ、とも、何をしに、とも言わずに玄関へ向かう背をすぐには追いかけたくなかった。
どうせ今日の予定はからっぽ。
彼の言葉を信じるわけではないが、一緒にいて退屈することはなさそうだ。
けれど、簡単について行っては彼の優位を認めてしまようで、癪に障る。
じっとリビングで立ち尽くしていると、玄関で靴を履いた彼がくるりとこちらを振り返った。
「どうした、あかり?」
柔らかな声で名を呼ばれ、うっかり差し伸べられた手を取りたくなったが、堪えた。
「あなたの名前、聞いてないんですけど」
「大きいに上で、オオガミだ。名前は、夜の始まりを表す『宵』、ショウだ」
(ふん。オオガミじゃなく、オオカミの方がお似合いよ)
にっこり笑って、わざとまちがえて復唱する。
「オオカミさん?」
「いや、オオガミだ」
「オオカミ?」