イケメン、お届けします。【注】返品不可
「パスタが食べたい」


パッと頭に思い浮かんだものをそのまま口にした。


「じゃあ、イタリアンだな。いい店がちょうどそこにある」


そう言って、彼は通りのはす向かいにあるレストランを示した。


「え。あそこって……」


そこは、雑誌や飲食店サイトでもオススメランキングで殿堂入りするような超高級レストラン。予約なしでは入れないはずだ。


「予約は……」

「顔がきく。行くぞ」


手を引かれ、通りを渡って店の扉を潜る。

あまりにも自然に手を繋がれて、振り払うタイミングを見失い、そのまま店に突入してしまった。


「いらっしゃいませ」

「個室は空いてるか?」

「はい。ご案内いたします」


わたしたちを出迎えたスタッフは、一瞬「面白いものを見た」と言うような表情をしたが、奥にある個室へ案内してくれた。

オオカミさんは、わたしに好き嫌いの有無だけを聞き、あとはシェフに任せるとスタッフへ伝える。

小ぢんまりした部屋の中には、四人がけのテーブルが一つ。

そこに、向かい合って……ではなく、なぜか隣り合って座る。
しかも、握った手はそのままだ。

「あの、オオカミさん。そろそろ手を離しても……?」

「ラブラブなカップルは、食事の時でも手を繋いでいると聞いた」

「え、いや、でもわたしたちラブラブではな……」

「俺は繋いでいたい。あかりはイヤか?」


じっと見つめられ、追い詰められて、うっかり縦ではなく横に首を振ってしまった。


(見つめれば何でも思いのままになると思って……この、卑怯者ー!)


「次は、映画、それとウィンドウショッピングだな」

「え。いいんですか? 男の人って、目的のない買い物とかイヤでしょう?」


これまで付き合った人の中で、ショッピングを一緒に楽しんだのはひとりかふたり。
どちらも、彼らが欲しいものをわたしが買う、というパターンだった。

オオカミさんがたかるような真似をするとは思わないが、まさか本気ではあるまいと疑いの目を向ければ、むっとした顔で頷く。


「どこへでも付き合うと言っただろう? それに、買い物に付き合えば、あかりの好みをリサーチできる」

「リサーチ?」

「ひとの行動のあらゆるところに、相手を知るためのサインが隠されている。呼吸一つ、瞬き一つ、見逃せない」


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