イケメン、お届けします。【注】返品不可
じっと見つめられ、ゴクリと唾を飲み込んだ。
甘い気持ちになって――ではなく、ヘビに睨まれたカエルのような心地で、だ。


「それに……好きな相手とは、片時も離れていられないものなんじゃないのか? 俺は、あかりと離れたくない」


せつなさの滲む表情で見つめられると、どんどん理性が削られていき、「わたしも!」なんて言ってしまいそうになる。


(ほ、本気じゃないのよ。これは演技、仕事。ルミさんの今日だけのプレゼントなんだから、勘違いしちゃだめだってば! このひと、バーのスタッフじゃなく俳優にでもなった方がいいような……)


「あかり。こっちを見ろ」


必死に理性をかきあつめていたが、いきなり顎に手が触れ、横を向かされ……キスされた。


「ちょっ……んっ……やっ」


個室ではあるが、いつスタッフが来るかわからない。

ノックはしてくれるだろうが、直前までキスをしていて平然とした態度を取れる自信はなかった。


「やめっ……」

「俺と一緒にいる時に、俺以外のことを考えるな」

「は……んなの、む……」


わたしがもがき、抵抗すればするだけ、キスが深まる。

ついに我慢できなくなって、彼のほぼ摘まむところのない脇腹をぎゅっとつねった。


「ってぇ!」

「は、発情期でもあるまいし、こんなところでディープキスなんかしないでっ!」

「人間はいつでも発情できる」

「なっ!」

「これでも、朝から理性を総動員しているんだ。今日が特別な日でなければ、とっくに押し倒してる」

「…………」


動悸、めまい、息切れが一気に襲って来た。


(な、なんなの……この破壊力。イケメンって恐ろしい……)


「顔が真っ赤だぞ? あかり。かわいいな」


意地の悪い笑みを浮かべ、ゆっくりと指の背で頬を撫でられる。


(もう、勘弁してーっ!)


このままだと気を失いそうだと思ったところで、タイミングよく注文した料理が運ばれてきた。


「ご、ゴハン食べましょうっ! 冷めたら美味しくないですしっ! わたし、飢え死にしそうなくらいお腹が空いてるんです!」


スタッフが出て行くのを待って、主張する。


「ちっ」


オオカミさんは不満げに舌打ちしたが、自分も飢えていたらしく、渋々手を離した。


(オオカミさんといると退屈はしないけれど、予測不能な行動にドキドキし過ぎて早死にしそう……)


今日一日無事に過ごせる気がしない。

そう思いつつも、黙々とワタリガニの身がたっぷり入ったクリームソースのパスタを食べ、デザート、コーヒーまでしっかり味わってから店を出た。

ダメもとで代金を折半しようと申し出てみたものの、「払いたければ別の方法で払ってくれてもかまわない」と言われ、素直にご馳走になることにした。

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