イケメン、お届けします。【注】返品不可
*********
「洋画、邦画、アニメならどれがいい?」
シネコンが入るビルは、服や靴、雑貨などありとあらゆる店が数多くあり、営業時間も夜十時までと長い。
ゆっくり買い物をするためにも映画を先に見ようということになったが、どれを観るかがなかなか決まらない。
「そうですね……アニメはナシかな」
無難なのは邦画のラブコメだが、次の上映時間まで一時間待たなくてはならない。
かといって、小難しい社会派の作品や時代物も、あまり惹かれない。
オオカミさんも同感らしく、小さな溜息を吐く。
「面白そうなものがないな」
「じゃあ……アレにしません? もうすぐ次の上映ですし」
わたしが指さしたのは、懐かしのホラー映画のリメイク。
正直、ラブコメなんかより断然気になっていた。
「懐かしくないです? わたし、友だちと映画のタイトルと同じ日に、シリーズ全部制覇したんですよー」
「ホラーか……」
オオカミさんは凛々しい眉根を寄せ、難しい顔をしている。
「ホラーといっても、グロテスクなシーンはそんなにないし、サスペンスやミステリーの要素が強くて、邦画のホラー作品に比べれば、あんまり怖くないと思うんですけど……」
「……そう、だな」
「じゃ、決まりで! チケット代はわたしが出しますね?」
奢られっぱなしは、何だか落ち着かない。
そういうところが、「貢ぐちゃん」認定されてしまうのかもしれないけれど、親しき中にも礼儀あり、だ。
「いや、それは俺が……」
「オオカミさんは、ポップコーンと飲み物買ってくれます? わたしコーラMサイズで!」
有無を言わさず分業にし、身体が大きいオオカミさんの座り心地を考えた結果、カップルシートを購入。
タイミングよくアナウンスで開場が告げられたので、チケットを見ながら指定された席へ移動する。
「……真正面か」
「いい席が空いててよかったですね! スクリーンもよく見えるし、音もよく聞こえるし。映画館に来るの久しぶりなんですけど、やっぱり大画面、大音量の迫力はたまらないですよねぇ?」
「あ、ああ……」
恋人同士ではないが、カップルシートに並んで座り、ほどなくして照明が落ち、ざわめきが止んだ。
本編が始まり、懐かしいテーマ音楽が流れ出すとわたしの興奮はマックスに。
上映中、要所要所でどよめきが起きたり、悲鳴を呑み込む声がしたりと、観客の反応も大いに雰囲気を盛り上げてくれた。
それでも、最初のうちは、オオカミさんが楽しんでいるかどうか気になって、チラチラ様子を窺っていた。
が、オリジナルにはなかったシーンや展開を追うのに夢中になってしまい、エンドロールが流れる段になって、ようやく彼の様子がおかしいことに気がついた。
「オオカミさん……? 大丈夫ですか?」
てっきり、淡々と映画を楽しんでいるだろうと思っていた彼は、大きな身体を二つ折りにして蹲っている。
そっとその肩に触れた瞬間、文字通り飛び上がった。