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「お、終わったのか?」
「は、はい。あの、もしかして……ホラー苦手でした?」
見ればわかるだろう状態ではあったが、一応確認のために訊ねると、オオカミさんは俯いたまま早口に映画の感想を述べた。
「苦手……なんだろうか。いままで観たことがないからわからなかった。カメラワークが絶妙で、効果音も不安と恐怖を煽るし、いくつも張られた伏線が気になって目を逸らせなくなる脚本もすばらしい。キャスティングも、演技派な俳優が揃っていてよかった」
(恐怖に震えながら、そこまで分析できてるってある意味すごいんだけど……)
「でも、怖かった?」
「怖くなかった」
そう言い張って、ふいっと顔を背けたオオカミさんは、震える手を伸ばし、わたしの手をぎゅっと握りしめた。
(か、かわいいんだけど! でも、そんなこと言ったら……絶対に怒るだろうなぁ)
笑いを噛み殺し、しばらくして彼の震えが収まったのを見計らって立ち上がる。
「立てます?」
「当たり前だ!」
むっとした表情でそう言った彼だが、少々ふらついていたので、手を握ったまま階段を下りる。
「どこかで休憩しますか?」
「いや、明るい場所へ行けば大丈夫だ」
しばらく、彼は暗がりで眠れなくなるんじゃないだろうかと思いつつ、シネコンを後にして、様々なテナントが軒を連ねるフロアへ移動する。
大混雑とまではいかないが、休日の午後ということもあり、買い物を楽しむ人でそれなりに混雑していた。
オオカミさんは、日常の平和な光景に心底ほっとしたらしく、小さく溜息を吐いた。
「それで……何か欲しいものがあるのか? あかり」
「んー、特にはないんですけど、ダイニングテーブルを見たいかな、と。あと、もうちょっと大きいソファーにしたいような気もしていて。あ、ここ見てもいいですか?」
インテリア用品のセレクトショップに入り、まずはダイニングテーブルをチェックする。
次は大物、ダイニングテーブルを作ろうかと考えていた。
大まかなデザインは決めているものの、質感や細部などを観察し、参考にしたい。
若者向けの家具を置いている店なので、基本的に二人用だ。
眺めているだけではテーブルの高さや座り心地などを確かめられないので、実際に座ってみる。
「二人なら、これくらいの大きさで十分だな」
「そうですね。正方形もコンパクトでいいですね」
「ん? これは……人数が増えても対応できるようになっているのか。便利だな」
オオカミさんは、傍観に徹するかと思いきや、ちゃんとわたしに付き合い、向かい合って座ったり、延長可能なテーブルの仕組みを確かめたりしながら、律義に感想も述べる。
「椅子も、折り畳み式のが二脚セットみたいですね」
「ほとんど外食だから、ダイニングテーブルの必要性を感じたことがなかったが……こうして、向かい合って食事をする相手がいれば、欲しくなるな」
まるで、その相手が「わたし」であると錯覚してしまいそうだ。
たぶん、無自覚で思わせぶりなオオカミさんに、どう反応するのが正解かわからない。
「……べ、べつに、ひとり暮らしだって、ダイニングテーブルは必要でしょう?」
「意味がちがう」
「意味?」