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「異動希望を出してもどうせ通らないですよ。デザイナー系の学校を卒業しているわけじゃないですし」
「専門の学校を出たからといって、いいデザイナーになれるとは限らない。大事なことは、実行力とやる気、そして粘り強さだ」
そんなのは建前だ、と言いたくなるのを堪え、無理やり話題を変えた。
「あ、ソファーフェアやってるんですね! 試してみていいですか? そろそろ買い替えようかなぁと検討中なんで」
オオカミさんは、何か言いたそうな表情をしていたが、それ以上追及しようとはしなかった。
ソファーフェアと銘打たれた売り場の一角には、大小さまざま、カラフルなソファーが並んでいる。自社『KOKONOE』の製品も、もちろんある。
「もうちょっと硬い方がいいかな?」
「そうだな。柔らかすぎて沈み込みが深いと、逆に疲れる」
見て、触って、座り心地を確かめる。
三つ目に試したソファーは、ちょうど正面に姿見があり、並んで座るわたしたちが映っていた。
まるで新居の家具を探す新婚さんのよう――なんて思いかけ、慌ててそんな考えを払うように頭を振る。
「お、オオカミさんにはもうちょっと大きい方がいいですねっ! 二人掛けでは、はみ出てしまいそう」
「確かに」
「あ、あっちのソファーも座ってみたいかも?」
そそくさと立ち上がり、次のソファーに腰を下ろす。
「これは、デザインは悪くないが、色と大きさがイマイチだな」
「残念ながら、カラー展開してないみたいですね」
「座り心地がいいな。サイズ的にもいいし、色もいい」
「明るいグレーだから、馴染みもいいでしょうね。部屋の印象も明るくなるかも?」
「ここにある中では、コレが価格と座り心地のバランスが一番いいな」
「同感です」
十個近く試した結果、一番コスパが良いとふたりの意見が一致したのは、他社製品だった。
『KOKONOE』が海外デザイナーとコラボして作ったものは、座り心地はよくても庶民には手の届かない値段。わたしの狭い部屋には、大きすぎるサイズもネックだった。
お互いに最高点を付けたソファーに再び並んで座ったところで、オオカミさんが宣言した。
「あかりが気に入ったなら、買おう。誕生日プレゼントだ」