イケメン、お届けします。【注】返品不可

「あかり……」

(くぅぅっ……ドーベルマンのくせに、何で捨てられた子犬みたいな顔をするのようっ!)

「……呼び出しは、インフォメーションセンターで対応してもらえると思います」


助けを求める視線を寄越すオオカミさんについ絆されて、一階のインフォメーションセンターまで付き合うことにした。

オオカミさんは、狭いエレベーターの中、押し殺した声で必死に言い訳してくる。


「あかり、もう一度言うが誤解だ。俺は独身だし、子どもはいない」

「そういうことを子どもの前で言うべきじゃありません」

「本当のことだ!」

「子どもの前で言い争うのもよくありません」

「…………」


泣きわめいて疲れたのか、ほっとしたからか。男の子はオオカミさんに抱かれたままウトウトしかけている。
その寝顔は、オオカミさんにあまり似ていない。


(お母さん似なのかな? きっと、奥さんはオオカミさんと並んでも見劣りしない美女なんだろうなぁ)


ルミさんからの「お届けもの」は、今日という日を特別なものにしてくれた。
ほんの少し胸が痛いのは、思った以上に早く夢から覚めてしまったからだ。

いろんなロクデナシと付き合ってきたが、かろうじて不倫だけはしていない。
新記録を打ち立てるつもりはないから、このままお別れするのが賢明だろう。

一階でエレベーターを降りれば、目の前がインフォメーションセンターだ。

カウンターには三十代くらいの男女がいて、スタッフに切羽詰まった様子で何かを訴えていたが、こちらに気づくなり叫んだ。


「「マナト!」」

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