イケメン、お届けします。【注】返品不可
「はぁ……ほんっと、おまえは……。重ね重ねすみませんでした。隠し子疑惑なんか浮上させちゃって。カノジョさんも、びっくりしたでしょう? 申し訳ない」

「い、いえ……」

「おまえも謝れ! 下手したら別れ話に発展してたかもしれないんだぞ!」

「お、お父さん、ごめんなさい。ぼくがパパって言ったから……」


声を荒らげる父親を見て、マナトくんが泣きそうになる。


「あの、わたしたちなら大丈夫ですから! ね? オオカミさん」


オオカミさんも事を荒立てる気はないらしく、鷹揚に微笑んでみせる。


「実際に何か被害を被ったわけでもないですし、気にしないでください」

「本当にすみませんでした」


イケメン好きの奥さんは困った人だが、旦那さんはしっかりしているようだ。

しっかり頭を下げ、何かあれば連絡をと言い出すのをオオカミさんはやんわりと止め、両親と手を繋いで帰っていくマナトくんを見送った。

一件落着。

彼らの姿が完全に見えなくなってから、オオカミさんは顔に貼り付けていた笑みを消し、深々と溜息を吐いて呟いた。


「映画の続きで、悪夢を見ているのかと思った……」


マナトくんを抱え、慌てふためいて必死に言い訳するオオカミさんの姿を思い返し、笑いがふつふつと込み上げる。


「……ふっ……くっ……くはぅ」

「あかり」

「ご、め、ごめなっさっ……」

「笑いごとじゃない。まったく身に覚えがないのに、突然『パパ』だなんて言われたら、誰だって平静ではいられないだろうっ!?」

「そ、そうだけど……でも、くっ……くくくっ」

「あかりっ!」


どうにも我慢できない。


「お、おお、かみさんのせ、背中をっ……貸してください」

「…………」


こんなところで爆笑していたら、注目の的になる。
窮余の策として、オオカミさんの広い背中に顔を埋めて五分弱。
ようやく笑いの発作が治まった。


「もう大丈夫です。すみませんでした」

「念のため言っておくが、隠し子はいないし、隠し妻もいない」

「はいはい……でも、いいパパぶりでした」

「…………」


苦い表情でわたしを睨むオオカミさんは、「このままだと、ちっともそれらしい雰囲気にならない」と言い、「下見するぞ」とすぐ傍にあるテナントを示した。

店構えからしてうっかりでは足を踏み入れられない、敷居の高さを思わせる一流宝飾店だ。


「え、何の下見ですか?」

「恋人同士なら、指輪を見たりするものだろう?」

< 29 / 67 >

この作品をシェア

pagetop