イケメン、お届けします。【注】返品不可


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彼の手を引いて歩くこと五分。
目的地に到着した。


「……『純子の店』?」


いかにも昭和なネーミングに、所々塗りの剥げた木製のドア。
オオカミさんとは縁のなさそうな場所ではあるが、わたしにとっては憩いの場だ。


「ここ、学生時代からずっと通ってるお店なんです」


学生時代、合コンでお持ち帰りされそうになって、しつこい相手を撒くために飛び込んだのが縁で、行きつけになった。


「こんばんはー! 純子ママ!」


ドアを開ければ、オジサンが熱唱するド演歌に出迎えられる。

平均年齢六十歳越えの常連さんばかりが集う店は、五席のカウンター、四人掛けのボックス席が三つあるだけだが、いつも賑わっている。

カウンターにいた常連さんが、わたしたちを見ると席を詰めてくれ、並んで座った。


「連れがいるなんて珍しいわね? あかりちゃん。しかも、こんなイケメン。どこで拾って来たの?」


おしぼりを差し出す純子ママは、興味津々だ。


「拾ったんじゃなくて、お届けものなんです」

「お届けもの?」

「誕生日プレゼントなんですよ。今日一日、わたしの夢を叶えてくれる魔法の恋人です」

「魔法の恋人、いいわねぇ。お兄さん、お名前は?」

「大上だ」

「大上さん、何をお飲みになりますか?」

「ビール」

「わたしも! つまみはおまかせで!」

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