イケメン、お届けします。【注】返品不可
熱唱を終えたオジサンに拍手を送り、瓶ビールを小さなコップに注いで乾杯。
オオガミさんは、物珍しげに店内を観察し、「不思議と落ち着くな」と呟いた。
「でしょう? たまに行くならおしゃれなバーもいいんですけど、そればっかりじゃ肩が凝っちゃうので。ここはひとりで安心して飲めるし、酔いつぶれても安全だし」
若かりし頃――合コンやナンパに積極的だった頃は、お酒よりも「出会い」を求めて、洒落た店に足しげく通っていた。
しかし、いまは気心の知れた人たちとの楽しい会話に癒しを求める気持ちの方が、強い。
純子ママの店なら、酔いつぶれたとしてもお持ち帰りされる心配はない。
常連さんは、自分の親や祖父母くらいの年齢ばかりなので人生相談なんかもできるし、逆に波乱万丈の人生経験を聞かされることもある。
大声で笑おうと、オイオイ泣いていようと眉をひそめられることもない。
「オオカミさん、まずは一曲いきましょう! 昭和の歌がウケますよ」
つきだしの「たこの酢味噌和え」をつまみながら、回って来たリモコンをオオカミさんに渡す。
受け取った彼は、物珍しそうにリモコンを眺めて、首を傾げた。
「どうやって使うんだ?」
「え。まさか、カラオケ……初めてですか?」
「ああ」
「一度も? 学生時代とかは……」
「日本にいなかった」
「じゃあ、どこに?」
「ニューヨーク、パリ、ロンドン、マドリード、ローマ……あちこち移り住んでいたから、どことは言えないな。日本には、通算しても一、二年ほどしか住んだことがない」
「…………」
(な、なんていうか……世界がちがいすぎるんだけど)
オオカミさんは、見た目だけでなく、中身もハイスペックのようだ。
店中の驚愕の視線がオオカミさんに注がれる中、純子ママがにっこり笑って提案してくれた。