イケメン、お届けします。【注】返品不可
「初めてなら、あかりちゃんとデュエットしたらどうかしら?」
「そうですね。オオカミさん、知ってる曲あります?」
いくつか有名どころの曲名を示すと、オオカミさんはどれも知っていると頷いた。
「祖母がよく聴いていたから、大体わかる……これがいい」
「え……」
オオカミさんが示したのは、これから夜を共に過ごすことを匂わせる甘々な一曲。
わたしがいいと言う前に、勝手にリモコンを操作してしまう。
前奏が始まり、常連さんたちがはやし立てる声に引きつった笑みを返しながら歌い出した。
オオカミさんは、最初こそちょっと戸惑っていたが、あっさり順応。
しかも、めちゃくちゃ美声。
その上、時折こちらと目を合わせるものだから、わたしの頬はどんどん熱くなり、マイクを持つ手が震えた。
純子ママも、常連のオバサマたちもうっとりしている。
(こ、こんなの……)
もう無理! と叫びそうになる手前で、ようやく曲が終わった。
「意外と……楽しいな」
どうやら、カラオケがお気に召したようだ。
「いい声してるわねぇ」
「お兄さん、次はわたしとっ!」
「いや、わたしとだよっ!」
常連のオバサマたちは、こぞってデュエット曲をリクエスト。
「いや、それは……」
「あっちで歌うよ!」
オオカミさんは、逆らえないまま店の奥にある小さなステージまで引きずられて行く。
腕を組まれたり、歌いながら写真を撮られたりとアイドルのような扱いだ。
パワフルなオバサマたちに太刀打ちできず、すっかりオモチャにされている。
五曲ほど歌った後、ようやく解放されたオオカミさんは、カウンターに戻るなりぬるくなったビールを一気に飲み干した。
「……疲れた」
「オオカミさん、歌がお上手ですね? しかも、マダムキラー」
なんだかんだ言って、オオカミさんはちゃんとオバサマたちの相手をしてあげていた。
口と態度は悪くても、相手を心底傷つけるようなことはしない。
根は、優しい人なのだと思う。
「しかも、ショウちゃんとか呼ばれてるし」
「あれは、むこうが勝手にっ……」
「オオカミさんって……見かけによらず、紳士ですよね」
「狙っている女に紳士と言われて、喜ぶ男はいない」