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「ケーキは、切り分けなくてもいいか?」

「もちろん!」

辛口のシャンパンを飲みながらお互いに端から食べ進め、消費したエネルギーを補充する。

甘いものが苦手だというオオカミさんが三分の一、わたしが三分の二を平らげた。

窓の外に広がる見事な夜景とシャンパンで再び酔いが戻り、ケーキの甘さで気分も甘くなる。


「こうして見ると、自分は意外と都会に住んでるんだなって思いますね。むこうに見えるのって、芸能人が住んでいると噂の高層マンションですか?」

「さあな。興味ない」


いつの間にか傍らに立っていたオオカミさんは、わたしの身体を椅子から持ち上げ、窓辺に移動。背後から抱きかかえるようにして、ウィンドウベンチに落ち着いた。


「こんなにきれいなのに、興味ないんですか?」

「ただの景色だ」

「ロマンチックの欠片もない言い草ですね」

「高層ビルが建ち並ぶ都会の景色より、山や川、草原……そういう自然の景色の方が好きなんだ。作られた完璧な美しさよりも……不格好でも、不完全でも、飾らない、あるがままの姿が好きだ」

「……わたしもです」


たった一日。
彼のことは名前以外、ほとんど知らない。
この夜景のように、朝になれば消える儚い夢だ。

でも、こんなに濃密で、幸せな誕生日をいままで過ごしたことはない。

次があると思えば先延ばしにしてしまいがちなことも、今日限りだと思えば素直に言える気がした。


「こんなに楽しくて、幸せな誕生日を過ごしたのは、子どもの頃以来です。ありがとうございます、オオカミさん」


そんなことを言われるとは思っていなかったのか、オオカミさんはちょっとびっくりしたように目を見開き、すぐに顔をくしゃりとさせて笑った。


「俺も、こんなに楽しい一日を過ごしたのは子どもの頃以来だ」

「楽しかった? 大変だった、ではなく?」

「貴重な体験をさせてもらった」

「貴重な体験?」

「これまで自分は、似たような境遇、似たような学歴、似たような価値観を持つ人間としか付き合って来なかったのだと、つくづく実感した」

「……どういう意味ですか?」


身分がちがうとか、住んでいる世界がちがうとか、そんながっかりするようなことを言い出すつもりかと軽く睨めば、苦笑いされた。


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