イケメン、お届けします。【注】返品不可
「今日一日、俺にとっては異文化体験の連続だった。ホラー映画も、目的もなくブラブラ店をうろつくのも。迷子に遭遇することも、カラオケを熱唱することも。真夜中に、高カロリーのケーキを食べることも。あかりがいなければ、経験できなかった」

「ちっとも楽しかったように、聞こえないんですけど」


オオカミさんの言葉は、わたしといること自体が楽しいのではなく、これまで体験したことのない出来事に遭遇するのが楽しいと言っているようにも聞こえる。


「そんなことはない。楽しかったし、嬉しかった」

「……嬉しい?」


予想外の返しに首を傾げれば、真顔で口説き文句を告げられる。


「あかりは、素のまま、みっともない姿を俺がさらしても、態度を変えなかった。ホラー映画を怖がる情けない姿を見せても。迷子を抱えてうろたえていても。叔母に子ども扱いされていても……あかりは、あかりのままだった」


イケメンであるがゆえに、完璧さを求められる。
そういう事情は、わからなくもない。

勝手に憧れ、理想を押し付ける人もいるのだろう。

その点、いままでロクデナシばかりと付き合ってきたわたしは、ちょっとやそっとのことでは幻滅しないメンタルを持っている。
イケメンで、ハイスペックなオオカミさんの失態なんて、歴代のロクデナシカレシどもに比べれば、カワイイものだ。


「だから、安心して傍にいられるし、自分の欲求にも素直になれるんだ」


背後から胸に伸びて来たオオカミさんの手を掴む。


「ちょ、ちょっと、もう十分でしょうっ!?」

「十分じゃない」

「え」

「何度でも欲しくなるんだ」

「…………」


わたしを見下ろす黒い瞳が近づいて、甘い唇が重なり合う。
残された時間を数えたくなくて、目をつぶり、彼の首に腕を回せば抱き上げられた。

乱れ切ったベッドの上にわたしを下ろしたオオカミさんは、不本意そうな顔で呟く。


「こんな風に……溺れるのも、初めてだ」


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