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「あ、あの、ルミさん……大上さんと、お知り合いで?」
「大上家とは家族ぐるみのお付き合いでね。宵と陽は、幼馴染なのよ」
「幼馴染ってことは……」
ルミさんの実家は、大手建築会社を営んでいる。
いわゆるお嬢様だ。
そんな彼女の家とお付き合いがあるということは、つまり相手もお金持ちということ。
ルミさんの大まかな説明によれば、大上家は国内最大手のデベロッパーである『大上不動産株式会社』の創業者一族。
取締役社長は大上さんの父親。海外事業部の本部長を務めている大上さんがいずれ跡を継ぐことは、暗黙の了解。
身に着けているものや完璧なエスコートから、なんとなく高収入、高学歴、それなりの家柄なんだろうとは思っていたが、予想を遥かに上回っていた。
「兄貴は海外暮らしが長くて、日本に帰国するのは年に数回、ほんの数日間なんです。今回も……。今日の朝イチで北米へ飛びました。本当にすみませんでした。あの、兄貴にもし連絡が取りたいなら、俺からでも……」
シバちゃんは眉尻を下げ、泣きそうな顔で謝ってくる。
「いいの、いいの。大上さんは、真面目に代役を務めてくれただけなんだから」
わたしたちはとても濃密な時間を過ごした。
けれど、連絡先は交換しなかった。
もう一度会えるとは思っていなかったし、もう一度会うつもりもなかった。
そういうことだ。
一夜限りのことだとわかっていたはずなのに、本当にその通りだと現実を突き付けられると動揺するなんて、情けない。
「本当に、大丈夫だから。楽しい一日をありがとうございましたって、伝えてくれれば十分」
「でも、」
食い下がろうとするシバちゃんだったが、フロアの方から彼を呼ぶ声がした。
彼目当ての常連さんが来店したらしい。
「シバ、行きなさい」
「……わかりました」
ルミさんに命じられ、渋々といった様子で去っていく。
わたしとルミさんは、いつものカウンター席へ落ち着いた。
「マティーニ。あかりちゃんは?」
「マンハッタンを」
本音では、ウィスキーの瓶をそのまま呷りたいくらいだが、まだ月曜日。
あと四日間は真面目に働かなくてはならないので、週末まで持ち越しだ。
「ねえ、あかりちゃん。誕生日……本当に楽しく過ごせた?」
結末がどうであれ、楽しかったのは事実だから、頷いた。
「はい。大上さん、いろいろ気を遣ってくれて。ロマンチックな夜を過ごさせていただきました」