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明日も仕事。ほろ酔い加減で切り上げて、家に帰る道すがらスマホで『大上不動産株式会社』『大上 宵』を検索してみた。

複数のインタビューやゴシップを斜め読みして得られた情報は、ルミさんとシバちゃんの言葉を裏付けるものだった。

幼少時から、海外進出促進の任に当たっていた父親に連れられて、各国各地を転々とした後、某国のボーディングスクールに入学。世界的に有名な二つの名門大学で学位を取得後、『大上不動産株式会社』に入社。各国各支社で経験を積み、いまは海外事業部門のトップ、本部長の地位にある。

公私共に人脈は広く、女性関係も華やか。スーパーモデルやら女優やらとの関係も取り沙汰され、少なくない数のツーショット写真がヒットした。

美女と腕を組む正装姿の大上さんと、昨日一緒にいた大上さんが同一人物だなんて、何かのまちがいじゃないかと思ってしまう。


(こんなひとが、『純子の店』でオバサマたちと昭和歌謡をデュエットしていたなんて、誰が信じる? それこそ、夢まぼろしでしょ)


普通に過ごしていれば、わたしなんかとは一生縁のないひとだ。

ルミさんが言ったように、一晩だけなら、未知の体験も新鮮に思える。
けれど、それがずっと続くとなれば、ストレスになる。

家族、学歴、知人友人、仕事……まったくちがうバックグラウンドを持つ相手のことを理解はできても、心の底から共感はできないものだ。

そういう困難を乗り越えて結ばれるカップルもいるだろう。
でもそれは、お互いが必要だから。
離れがたく、結びついているからだ。
そうでなければ、とても乗り越えられはしない。


(わたしと……大上さんじゃ、無理ね)


恋も愛もない。
友情と呼べるほどのものもない。
雰囲気に流されて、関係を持ったことのある知人。

それが、わたしと大上さんだ。

改めて、昨夜のことは一日限りの魔法だったのだと自分に言い聞かせ、ブラウザを閉じた。


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