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夢のような誕生日のあと。
当然のことながら、大上さんからの連絡は一切なかった。
期待していないと言いながらも、スマホを見る時間は断然増え、ドライフラワーにした薔薇の花束を見るたびに、大上さんのことを思い出した。
会えない、会うことはないとわかっていても、会いたくて、何もかも忘れるために、いっそ放浪の旅に出ようか……なんて思うくらい、鬱々としていた。
しかし。
全社全社員向けに一斉送信されたメールが、そんな気持ちを一変させた。
取締役社長直々に送信されたメールには、派遣社員を含め、『KOKONOE』で働くすべての人間に参加資格のある、デザインコンテストを開催する旨が書かれていたのだ。
コンテストの趣旨は、社内に眠る貴重な人材やアイデアを発掘すること。
生産や開発に関わる部門に所属していなくとも、家具やインテリア関係に興味のある人間が働いているはずなのだから、それを有効活用しない手はない、ということらしい。
作品は、落書きのようなデザイン画でもかまわないし、CGを使ってもいい。もちろん、実物を作ってもいい。実現不可能に思えるような案だってかまわない。
要するに、なんでもアリだ。
勤務評定に反映されるものではなく、優れたアイデアや提案には賞金も出るということで、人事部でも挑戦すると名乗りを上げた同僚はわたしを含め少なくなかった。
たとえ、コンテストでいい成績を収められなくとも、好きなことに打ち込んでいれば余計なことを考えずに済む。
何を作るか、迷うことはなかった。
『ダイニングテーブルとチェア』
もともと作るつもりでいたし、それ以外のものを作りたいと思わなかった。
とはいえ、かなりの大物。昼間は普通に働きながら、一か月で完成させるのはかなり厳しい。
というわけで、思い切って一時的に実家へ帰ることにした。