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『家具よりも、将来有望なカレシを作りなさい』

なんて、母には叱られたけれども。

通勤時間が三十分ほど延びてしまうが、家事全般は専業主婦の母がやってくれるし、土日だけでなく、自由になる時間を丸ごと制作に費やせるのだから、小言を言われようが、溜息を吐かれようが、かまわなかった。

そうして、制作に没頭すること一か月。

完成したダイニングテーブルは、天板には無垢材を使用した組み立て式。
狭い部屋で空間を有効活用できるよう、天板横や下に、収納スペースも設けた。
脚の素材は木や鉄をお好みで組み合わせられる。

チェアは、最初はコンパクトさを優先して折り畳み式にしようと思ったが、安定性と座り心地を考えてやめた。
座面には取り外し可能なクッション材をつけ、長時間座っても疲れないように工夫してある。
一番の特徴は、あえてデザインや座り心地が少しずつちがうものを用意したこと。
お気に入りの食器を選んで使うように、お気に入りのチェアも選べたらいいな、と思ったのだ。

全体的にシンプルな出来上がりとなり、最近の『KOKONOE』が打ち出している路線からいくとかなり地味だし、組み立て式なので高級感はない。

でも、自分が好きなものを選び、組み合わせる自由を優先したかった。

たとえちぐはぐでも、好きなものに囲まれた暮らしは、豊かで幸せだと思うから。

そんな思いが伝わったのか、社員投票で獲得した票数はグランプリ作品と三票差。
しかも、友人に譲って欲しいと頼まれたと社長に言われ、了承した。

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