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「ところで……あかりちゃんのところの社長、ものすごいイケメンだって有名よね?」
「はい……」
ルミさんの言う通り、『KOKONOE』の取締役社長は、三十代の日本人離れした超イケメンだ。
経済誌に社長のインタビュー記事を載せる際、出版社が必ず表紙に彼の写真を使うのは、それだけで二倍、三倍の売り上げになるからだとか。
「授賞式で、写真撮らなかったの?」
「撮りましたよ。これです」
タブレットを操作し、社長のポケットマネーである賞金の三十万円を手にしたわたしと彼が並んで写る一枚を表示させるなり、ルミさんはうっとりした顔になる。
「はぁ……ほんと、超イケメンねぇ……。うちのバーに引き抜きたいわぁ」
「それは無理だと思いますよ? とんでもなく俺様だって噂ですし。第一、既婚者ですしね。ちなみに、年下の奥さんにはめちゃくちゃ弱くて、尻に敷かれまくっているらしいです」
「くぅぅ、俺様だけど愛する妻には弱いなんて……そのギャップがたまらないぃ!」
身悶えするルミさんの意外な意見に、首を傾げてしまった。
「ルミさん、中身も外見も完璧なイケメンが好きなんじゃないんですか?」
「わたしは、イケメンはイケメンでも、血の通ったイケメンが好きなのよ! 何もかも完璧そうに見えて、実はピーマンが食べられないとか。不器用でネクタイが上手く結べないとか。どうしても朝、ひとりでは起きられないとか。そういう、イケメンではない部分を見せられると、キュンとするでしょ?」
「はぁ……そうですか?」
「イケメンだって人間なんだから、四六時中カッコつけてはいられないし、苦手なことだってあるはずよ。でも、そういう部分を見せられるのは、本当に心を許した人だけだと思うの。あかりちゃんのところの社長が奥さんに弱いのも、だからなんじゃないかしら?」
ルミさんの言葉で、あの夜、楽しくて嬉しかった、素のままでいられたと言ってくれた、オオカミさんが思い出された。
一日限りの恋人役だったとしても、その言葉に嘘はなかったと思いたい。
たとえ、その先に続くものがなかったとしても――。
「ねえ、あかりちゃん。仕事は、新たなステージに向け邁進中のようだけれど……恋は、どうなの?」
「え……? あの、いま、何て……」
あの日のことを思い浮かべていたため、ルミさんの言葉を聞き流してしまい、問い返す。
「恋よ、恋。いい出会いは、あった? 社内恋愛に挑戦してみようかって言ってたでしょ?」