イケメン、お届けします。【注】返品不可
「あ、ああ、はい……いえ……同僚とか上司にはイケメンもいい人もいるんですけど、その、どうしてもいまさら感が強くって。そういう気持ちに……恋愛モードになかなかなれないというか。それに、異動を狙うなら、しばらく……恋愛はしなくてもいいかなって思ったりして……」


ここ一か月、制作に忙しくてそれどころではなかったこともあるが、社内のイケメンたちを見ても、まったくときめかなかった。
それどころか、無意識のうちに大上さんと比べてしまい、好きになれない理由ばかりあげつらう始末だ。

カレシと別れたことを報告した途端、同僚や学生時代の友人たちからも、合コンのお誘いが来たけれど、重い腰を上げる気になれず、お断りしている。


「それって……恋する気になれないんじゃなくて、すでに恋しちゃってるから、ほかの人ではダメってことじゃないの?」


鋭い指摘にドキッとする。


「え、いや、そういうことじゃなく……ほら、あの日も言ったように、アレコレと段階を踏んでいくのがもう面倒っていうか」

「じゃあ、いきなり見知らぬイケメンにプロポーズされたら『イエス』って言うの?」

「え……」

「お付き合いが面倒だから、過程をすっ飛ばして結婚したいって言ってたじゃない?」

「…………」


カレシの浮気に遭遇し、やさぐれていたわたしは、確かにそんなようなことを口走った。

恋は盲目というタイプではないので、熱烈な愛はなくとも、お互いに好意を抱いてさえいれば、それなりに楽しく、幸せにやっていけるだろうと思ってもいた。

後先考えずに、いまこの人が欲しいだなんて、そんな強い衝動にかられたことなんてなかった。


――大上さんに出会うまでは。


あの日、大上さんは「安心して傍にいられるし、自分の欲求にも素直になれる」と言ってくれたけれど、それはわたしも同じだった。

これまで付き合った元カレたちとは、どこかで壁を作り、一線を引いて、自分を守っていたのだと思う。
だから、浮気されても、自然消滅しても、ずるずると引きずることなく、諦められたのだと思う。

わずかでも、遠慮したり、無理をすることなく、思うままに言い合ったり、じゃれあったり、愛し合ったりする楽しさや嬉しさを知ってしまったいま、これまでのような薄っぺらい関係で満足できるとは思えなかった。


大上さん以上に惹かれる人が現れなければ、きっと次の恋には進めない。



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