イケメン、お届けします。【注】返品不可
ルミさんは、答えに詰まり、何も言えずにいるわたしを大きな瞳でじっと見つめていたが、ふっと小さく息を吐くと唐突に話題を変えた。


「ねえ、あかりちゃん。どうして、コンテストに出す作品をダイニングテーブルとチェアにしたの?」

「え? それは、もともと作ろうと考えていたからで……」


戸惑いつつも、事実をそのままに答えたら、首を横に振られた。


「そういうことじゃなくて。誰を思い浮かべて、大柄な人でもゆったり座れるサイズのチェアを作ったの?」

「…………」

「犬に噛まれた傷、まだ治ってないんでしょう?」


ちがう、と言おうとしたけれど、開いた口から言葉は出なかった。
その代わり、見開いた目から、涙がこぼれ落ちた。


「ごめんね、あかりちゃん。わたしが余計なことを言ったから、無理にアイツのこと諦めようとしたのよね?」


慌ててあふれた涙を拭い、しょんぼりするルミさんにそうではないと説明する。


「ちがっ……ルミさんの、せいじゃない。わたしと大上さんじゃ釣り合わないってわかっていたし、最初から無理だと思ってたから……」

「そうね。あの時のあかりちゃんは、そう考えるだろうってわかってた。だから、諦めなさいとアドバイスしたんだけど……。いまのあかりちゃんには、ちがうアドバイスをしたい」

「……ちがう、アドバイス?」

「諦めようとしても諦められないなら。忘れようとしても忘れられないなら。気になってしかたなくて、どうしても目を逸らせないなら、覚悟を決めて向き合うしかないでしょう?」

「でも……わたしはそうでも……大上さんは、」

「宵は、勝手に情報を入手して、迫ってくる女ばかりを相手にしていたもんだから、一般的な恋愛スキルを持ち合わせていないのよ。お付き合いを始めるならば、まずは連絡先を交換するべし、という初歩的なこともわかっていない。その上、自分が予期せぬ電話に貴重な時間を奪われるのがイヤだから、相手もそうだろうと思っている。用もないのに連絡を取る必要があるなんて、まったく考えていないの。それにね……」


ルミさんは、なぜか突然にんまり笑い、わたしの耳元で囁いた。


「声を聞いたら、メールやメッセージをやり取りしたら、絶対に会いたくなる。でも、地球の裏側にいては、すぐに会いに行けない。だから、連絡したくないって、シバちゃんに言ったんだって」

「…………」

「ルミ! あかりに余計なことを吹き込むな」

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