イケメン、お届けします。【注】返品不可
わたしとオオカミさんの遣り取りを見守っていた人たちの、心の声が聞こえた気がした。
オオカミさんは、そんな周囲の反応を意に介することなく、抱えていたわたしを再び椅子に下ろすと、スーツのポケットから小さな箱を取り出した。
「この一か月、あかりと日本で暮らすために死ぬほど働いて引き継ぎを終えた。あかりと暮らすための家も用意した。これは、一個目のエンゲージリングだ」
それは、あの日あのお店で見た指輪の一つ。
透かし模様の入ったデザインが普段使いもできそうで、もし一つだけ選ぶなら、これがいいと思っていたものだ。
「似合うな」
わたしの手を取り、指輪を嵌めたオオカミさんは満足そうに頷いた。
「二個目は、入籍の時に渡す」
「あの、わたし、まだ……返事してないんですけど」
「聞かずとも、返事は『イエス』だとわかっている」
自信たっぷりに言ってのける様が憎たらしい。
憎たらしくて、悔しいが、その通りだ。
(でも、もうちょっとそれらしいことしてくれても……)
派手な演出はいらないけれど、あまりにもなし崩しだ。
そんなわたしの不満を感じ取ったらしく、オオカミさんはしかたないと言うように溜息を吐いた。
「しかたない。なんでも願いごとを叶えてやると約束したからな……陽!」