イケメン、お届けします。【注】返品不可
疑うわたしに、オオカミさんは目を逸らし、ぼそぼそと言い訳する。


「コンテストは、九重社長のアイデアだ。俺は何もしていない。ただ、見どころのあるデザイナーを知らないかと訊かれて、外にばかり目を向けていると内にある貴重な人材を見逃すかもしれないと言っただけだ」

「……本当に?」


強引なところのあるオオカミさんが、そんな控えめなことで済ますなんて疑わしいと見つめれば、真顔で潔白を訴えた。


「本当だ。審査にも関わっていない。あかりがコンテストに参加していると知ったのも、今日、帰国する飛行機の中だった。百歩譲って、俺がコンテストを開くよう九重社長に頼んだとしても、チャンスはあかりだけに与えられていたわけじゃない。参加したのはあかりの意志だし、審査して受賞作を決めたのは社員と審査員だ。俺は、何もしていない」


確かに、オオカミさんが言うように、コンテストに参加すると決めたのはわたし自身だし、わたし以外の多くの社員も参加していた。

チャンスは、平等に与えられていた。

審査だって、公平性を欠いていたとは、思えない。
グランプリを獲得したのは、審査員投票はもちろんのこと、社員投票でも一位となった作品だったのだから。


「俺がしたことは……社内コンテストの結果を連絡してきた九重社長に、あかりが作ったものを譲ってほしいと頼んだだけだ」

「譲ってほしいと頼んだのは……わたしが作ったから、ですか?」

「それもある。が、一番の理由は純粋に、いいと思ったからだ。特に、一般的なサイズよりも大きめで、座り心地が良さそうな椅子が気に入った」

「…………」


嬉しいような、苦しいような、複雑な感情が渦巻き、込み上げ、胸がいっぱいになる。

何か言わなくてはと思うのに、言うべき言葉が見つからず、茫然と突っ立っているわたしの手から、オオカミさんが薔薇の花束を取り上げ、ダイニングテーブルに置いた。


「この家の居住スペースは、見ての通りごく普通だ。ただ、ほかの候補にはない特徴がある」


オオカミさんは、わたしの背を押して、玄関横の扉へ導いた。


「ここから、増築した部分に繋がっている」


扉の向こうは細い通路になっていて、奥へ進むと倉庫のような場所に出る。


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