イケメン、お届けします。【注】返品不可
中はかなり広く、壁際には木材が並び、電動ノコギリ、ドライバ、トリマーやジョイントカッターなどの工具も揃っていて、ちょっとした木工所のような雰囲気だ。


「ここ……は?」

「前のオーナーが、趣味のDIY用に作った場所だ。ちょうど家の裏手にあって、庭に面した向こう側の扉から木材などを搬入できるようになっている。これだけ広ければ、思う存分、何でも作れるだろう?」


どうだ、とわたしを見下ろすオオカミさんは、ご褒美を待つ犬のようだ。
おかしくて、嬉しくて、笑いが込み上げ、さらには涙まで込み上げた。


「ど、うして……こ、んなことまで……してくれるんですかっ?」

「あかりの夢や願いは、なんでも叶えてやりたいし、大概のことは叶えられると思っている。だが、俺があかりの代わりに家具を作っても、あかりの望みや夢を叶えることにはならない。その場合、俺にできるのは環境を整えることだけだ」


オオカミさんの真摯な言葉に、胸の奥でわだかまっていたものが解けていく。

一か月以上何の連絡もなく放置されていたことなんて、些細でどうでもいいことのように思えてしまう。


「応援、しすぎです」

「そうか? でも、それはしかたないだろ。俺は、あかりのファンで、最初の客なんだから。次の注文は、ベッドだな。大きすぎてもダメだし、小さすぎてもダメだ。大人ふたりが寝るのにちょうどいい大きさで……どんなことをしても壊れない、丈夫なものがいい」


わたしを抱き寄せ、ニヤリと笑うオオカミさんの胸を軽く叩くと、「もう一つあった」と言い出す。

まだ何か不埒なことを言うつもりかと睨むわたしに、彼はこれ以上はないくらい、甘い笑みを見せた。


「ベビーベッドがほしい」

「…………」


予想もしていなかった要求に、戸惑い、困惑し、咄嗟に返事ができなかった。
けれど、じわじわと嬉しさが込み上げてきて、頬が緩む。


「……あかり?」


促されて、素直な気持ちを口にした。


「わたしも……作りたいです」


オオカミさんはくしゃりと嬉しそうな顔で笑い、わたしを力任せに抱きしめた。



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