イケメン、お届けします。【注】返品不可
いずれ取り壊す予定のため、内装を自由に変えていいという条件に釣られて住んでいる、築二十年を軽く超える激安物件。
見るからに、お金も若い女性もありそうもないこのアパートに来る人物と言えば、配達員か借金取りくらいのものだ。
寝起き、しかもルームウェアと呼ぶのもおこがましい、襟元がのびきったTシャツに下はジャージという姿だが、荷物を受け取るだけ。わざわざ着替えるまでもないだろう。
「はーい、いま行きまーす」
(そう言えば、誕生日に何か欲しいものはないかって、昨夜ルミさんに訊かれたような……もしかして、カニっ!?)
ウキウキしながら、「ごくろうさまでーす」とスマホ片手にがちゃりとドアを開け、一瞬、目を疑った。
「え」
そこにいたのは、真っ赤な薔薇の花束を抱えた背の高いスーツ姿の男性。
前髪を立ち上げ、きちんと整えられた短めの黒髪。
凛々しい眉、涼し気な目元、まっすぐ通った鼻筋、精悍な頬、薄い唇――。
あまりにも凛々しすぎるイケメンぶりに、ごくりと唾を飲む。
「届けものだ」
「ど……どうも、ごくろうさまです」
圧に耐え切れず、差し出された花束を受け取るなりドアを閉めようとしたら、ガッと大きな手で止められ、引き開けられた。
「届けものは、そっちじゃない。こっちだ」
「は? こっち?」
「俺だ」
一瞬、日本語が理解できなかった。
「オ、レ……?」
「昨夜、誕生日プレゼントに欲しいと言っただろう?」
「は? そんなことい……」
「言った」
言ってない、と否定する前にギロリと睨まれる。
大急ぎで記憶をおぼろげな昨夜のものまで巻き戻し……青ざめた。
「言っただろう?」
念を押され、取り調べを受ける犯人のような心境で、
「……はい。言いました」
自白した。
(言ったわ。確かに、真っ赤な薔薇の花束持ったイケメン欲しいって……言ったわぁ……)
酔ってはいたが、記憶をなくすほどではない。
昨夜のことは、覚えている。
けれど、だからと言って見ず知らずのイケメンを「はい、どうも」とは受け取れまい。
警察を呼ぶべきか、救急車を呼ぶべきか。
真剣に悩むわたしに、「お届けもの」は憤慨した様子で要求した。
「わざわざこんな朝早くから出向いてやったんだ。コーヒーの一杯くらい出すのが礼儀だろう?」