愛しの三味線侍
☆☆☆

スタジオから一歩外へ出ると冬の冷たい空気が肌にまとわりついてくる。


しかしそれすら心地良いと感じられるくらいに私の体は熱気に包まれていた。


「すごかった……」


何度目かのため息とともに出てきた言葉に、隣を歩く一弘が笑って「ありがとう」と、答えた。


本当に、冗談やお世辞などではなく本当にすごかった。


演奏する楽器がまさか三味線だとは思っていなかったが、呼吸を忘れて見入ってしまった。


音楽の世界には疎いから、プロとアマチュアの差だってちゃんとわかっているとは言い難い。


けれど今日の体験は確実に自分の中の音楽という概念をとっぱらってくれたように思う。


「今日は本当にありがとうございました」


駅まで移動してきて、私は深く頭を下げた。


これからはもっと音楽を聞いてみよう。


ここに来るまでの間に一弘が所属しているバンドは、和楽器バンドであるとわかった。


和楽器を扱うバンドがあるなんて、今日始めて知った。


レコーディングのことをよくよく思い出してみれば、メンバーは全員和服姿だったし、楽器も琴や太鼓が使われていたので珍しいと感じていた。


レコーディングが終わってから初めて和楽器バンドだと聞かされて、納得したのだ。


「こちらこそ来てくれてありがとう。少しでもファンを増やしたくて、無理に突き合わせちゃったよね」


「いいえ、とんでもない!」
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