愛しの三味線侍
そう思って振り向いた瞬間派手な和服が視界に飛び込んできて言葉を失った。


「連絡するって、俺に?」


一弘に質問されても、すぐには反応ができなかった。


どうしてここにいるの?


いつからここにいるの?


疑問ばかりが浮かんできて言葉にならない。


「舞ちゃんのこと、少し借りていい?」


「どうぞどうぞ! 返品不可でよければ」


ニヤニヤとした笑みを浮かべて答えるアユミ。


「じゃあ少し散歩でも行こう」


勝手に商品扱いされた私は突っ込む余裕もなく、慌てて一弘の後を追いかける。


外に出るとお酒で火照っていた体もすぐに覚めていく。


それに比べて初めて一弘の演奏を聞いたときには、もっと体が熱くなっていたなぁ。


そんなことを思い出した。


「連絡しなくてごめん」


「……ううん」


なんとなくぎこちない返事になってしまう。


一弘と肩を並べて歩くのは一ヶ月ぶりになる。


それまでだってそんなに親しい仲じゃなかったし、私達って一体どういう関係なんだろう?
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