愛しの三味線侍
会場の室温は最初の頃より5度は上昇しているようで、空中に白いモヤが立ち込めている。


私もジットリと汗をかいていた。


「そのパフォーマンスを考えてくれたのは、三味線のカズヒロです」


ボーカルに紹介されてカズヒロが一歩前に出る。


まわりから拍手が湧いた。


「俺は今、実は気になる女の子がいて。その子がヒントをくれました」


一弘がマイクへ向かって話す。


その言葉に心臓がドクンッとはねた。


こころなしか、一弘の視線がこちらへ向いているようにも見えるけれど、自意識過剰だろうか。


ドクドクと高鳴る心臓。


頬が熱くなっていくのを感じる。


ついうつむいてしまいそうになったところで、曲がはじまった。


それはレコーディングスタジオで聞いた、激しいロックナンバーだ。


しかしそれを和楽器で演奏していることで、なんとなくしっとしとした曲にも聞こえてくる。


一弘は汗を振りまきながら三味線をかき鳴らす。


その姿にボーっと見惚れてしまう。
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