愛しの三味線侍
やがて曲は長い間奏に入った。


その間太鼓と笛が激しく演奏を続けていて、一弘とボーカルが向かい合った。


互いににらみ合い、腰に刺した刀を同時に引き抜く。


どうやらこのパフォーマンスは歌詞の中に出てくる男2人を演じているようだ。


歌詞の内容は、1人の女性をめぐって元カレと今カレが争うというものだった。


「お前なんかに舞は渡さない!」


え……?


一弘の叫びに一瞬時間が止まったように感じた。


次の瞬間には元カレ役となっていたボーカルがその場に大げさに倒れてみせる。


ファンたちはそのパフォーマンスに拍手を贈り、そしてまた歓声に包まれた。


今、舞って言った……?


いや、これだけ騒がしい会場内だ。


自分の聞き間違えだったのかもしれない。


ドキドキとする心臓に気が付かないフリをして、私は曲に集中したのだった。
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