愛しの三味線侍
☆☆☆

今日の仕事は夕方の6時に終わる予定だった。


いつもは少し残業をして7時くらいに退社になるのだけれど、わたしはそそくさと外へ出た。


1日天気が良いと行っても寒い季節だ。


裏口から外に出た瞬間冬の寒さが肌を突き刺してくる。


特に今年の冬は寒く感じられて、私は薄ピンク色のマフラーで口元まで隠した。


白いハンドバッグからスマホを取り出して確認してみると、友人のアユミからメッセージが来ていた。


《アユミ:先にタイキと待ってるからね!》


絵文字つきの文章にホッと仕事の緊張がほぐれる気がした。


アユミは私の学生時代の友人で、タイキはその彼氏だ。


2人共大学時代から付き合っていて、今年でもう7年目だと言っていた。


そろそろ結婚すればいいのにと思うけれど、アユミもタイキも今の仕事が楽しいらしくて、なかなか結婚に踏み込もうとしない。


「私はいつだって結婚したいのになぁ」


思わず呟くと、声は白いモヤになって街なかに消えていった。


ほんの一週間前までは『この人と結婚するかもしれない』と思う相手がいたのに、今では一人ぼっちで寒い季節を過ごすOLだ。


健の言葉をもっと真剣に受け取っていれば、ちゃんと掃除をしていれば、こんなことにはならなかったのかな。


そんな風に考えて少しだけ涙が出た。


グスッと鼻をすすり上げて手の甲で涙を拭う。
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