愛しの三味線侍
タイキくんの声はいつもより少し大きい。


テーブルへ視線を向けると、すでにジョッキの半分が空になっていた。


「こんな男で良ければ話を聞いてくれるから」


隣のアユミは少し冷めた視線をタイキへ向けて言った。


すでにほろ酔い加減になっているのがお気に召さないらしい。


けれど私がフラれたと知らせたときに真っ先に飲みに行こうと誘ってくれたのはタイキくんだった。


飲んで食べて、パーッと忘れられるのであれば、友人という存在は本当にありがたいものだと思う。


「じゃあ、私もなにか頼もうかな」


メニュー表を手前に引き寄せて開いたときだった。


「と、その前に自己紹介」


と、アユミが言った。


「え？　自己紹介？」


私は怪訝に聞き返す。


ここにいるのは私達３人だけで、大学時代からの友達だ。


なんで今さら自己紹介なんて……。


そう思った時、横からヌッと誰かが現れた。


突然のことで思わず悲鳴を上げそうになる。


「ちわ。伊藤一弘です」


その人は伊藤一弘と名乗ると、当然のように私の隣に座ったのだ。


えーっと、これはどういうこと？
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