クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
一気に心配が押し寄せ急いで風呂場に行く。
ドアの外から呼びかけてみる。
「小春?」
応答がない。
ドアをドンドン叩いてみる。
応答がない⁉︎
「入るぞ!」
慌てて洗面所のドアを開け、ガラス越しに呼びかける。
「小春!小春!」
ガラス扉を開け中に入る。湯船に浸かったまま目を閉じている。
必死で風呂から抱き上げバスタオルを身体に巻き付けリビングに向かう。
「小春、目を開けて!!」
ソファに下ろす。
手が震え、走馬灯のように母が亡くなった日を思い出す。
呼吸は⁉︎心拍は⁉︎
息はしてる!
心臓に耳を当てる。心拍も聞こえる!
寝てるだけか⁉︎
顔色を伺う。
脱水症状か⁉︎
そういえば朝から水分を取ってる所を見てない!
慌てて冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し、小春の元へ小走りで戻る。
膝に横抱きに抱き上げ座り、水を口に含み無理矢理流し込む。
小春は小さく咳き込ながらも喉をゴクンと動かす。
「ゴホゴホ…。」
うっすら目を開ける。
「小春?大丈夫か⁉︎」
ボーっと俺を見て焦点が合う。
「…先輩?」
はぁーー。大きく安堵のため息を吐く。
「驚かすなよ。息して無いかと思っただろ。」
ぎゅーっと小春を強く抱きしめる。
今ので寿命が10年は縮まったわ。
身体の震えがまだ止まらない。
状況を把握できないのか腕の中で小春がキョロキョロ周りを見回す。
「…俺が中2の時、母親が風呂場で手首を切って自殺したんだ…。第一発見者は俺だ。」
「えっ…。」
衝撃的な話しで小春が目を見張って固まる。
「ご、ごめんなさい。心配かけて…。
私は大丈夫ですから。大丈夫です。」
小春はぎゅっと俺の背中に手を回して抱きつく。
2人はつかの間、抱きしめ合う。
「…ごめん。びっくりしたよな。とりあえず、この水ゆっくり全部飲んで。」
ペットボトルを両手で持たせ、一緒に支えながら口に運ぶ。
ごくごくと2回喉を鳴らして水を飲む。
「良かった…なんとも無くて。」
ようやく震えが止まって気持ちが落ち着く。
「眠そうな小春に風呂を勧めたのが悪かった…。」
そう呟く。
「違います。私がいけないんです。修哉さんは心配してくれたのに…お風呂場でうたた寝しちゃって…心配かけてごめんなさい。」
小春がペコリと頭を下げる。
アレ?っと自分の格好を見て首を傾げる。
「えっ、えーーっ!!」
小春は状況をやっと把握できたのか胸元を抑えて俺の膝の上から飛び退く。
目をパチパチさせて俺を見上げる。
「いや…俺も必死だったから…何も見てない、て言うか覚えて無い。」
裸を見られたと自覚したのか小春が全身真っ赤になって恥ずかしがる。
俺も服が全身びしょ濡れだった事に今気づいた。
「着替え持ってくる。」
そう言い残して、濡れたTシャツを脱ぎながら洗面所に戻る。
小春って全身細っそりしてるのに胸は意外とあるんだな。
冷静になった頭で思った。