クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
ふーーっと深いため息をつく。
ベッドの上で仰向けになり、
手には先輩からもらった貴重な携帯番号が書いてあるパンフレット。
あれから、夢見心地のふわふわした足取りでアパートに帰り、遅いお昼ご飯を食べた。
少し休んだら、夕方5時から10時まで今度はコンビニのバイトがある。
パンフレットには、偶然なのか計算なんか分からないけど、『YUKI』のニューアルバムの発売日と紹介が書かれていた。
アルバムのタイトルは『小春日和』
新曲のタイトルは『小さな春の唄』
もうっ。
と怒ってみる。
先輩、私に何か恨みでもあるの。
小春、小春ってまるで嫌がらせみたい。
どん底にいた初春の頃。
思わず買ったCDを手に取り、歌詞カードを見る。
手書きの字は、懐かしい先輩の字だった。
表紙の写真は、音楽室にグランドピアノ。
開いた窓から、桜の花びらが舞い込んで。
まるで、最後に先輩とお別れしたあの日のようだ。
なんで早く気づかなかったんだろう。
いろんな所に先輩からの暗号が隠れていた事に。
そういえば、あの日、
最後に先輩がノートの隅に携帯番号を書いて破って渡してくれた。
『西野は、バカがつくほどお人好しだから心配だ。何か困った事があったら俺に電話しろよ。』って言ってた。
あの後、何度も電話しようか迷い、
何度も見たあのメモは、
まだ引き出しの奥底に眠っているはず。
そういえば。あの時、結局一度も電話しなかったなぁ。
だから根に持って先輩、怒ってるのかなぁ。
先輩に会いたくないなぁ。
あの頃のキラキラしてた夢見がち私と、
今はまるっきり違う、
今の私を知ったらきっと幻滅される。
でも、それでいいのかもしれない。
私なんかにこだわって、過去に囚われているのなら、先輩を早く開放してあげなくちゃ。
決心がついたら、電話しなきゃ。
心に誓い、少し目を閉じる。