クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
「やっぱり、ネクタイにスーツの方が良くなかったか?」
まだ気にしていたんだと思いながら、
「修哉さんはどんな格好でもステキですから大丈夫です。」
手土産はいろいろ吟味した結果、住んでいる近くの人気洋菓子店の焼き菓子セットにした。修哉さんは抜かりなく、弟のひろくん用の可愛らしい動物クッキーも買っていた。
「じゃあ。行こう!」
覚悟を決めた感じで修哉さんが車から降りて、わざわざ助手席のドアを開けてくれる。
「ありがとうございます。
そんなに緊張しなくても大丈夫ですよ。
絶対反対される事は無いので。」
手をぎゅっと取られて歩き出す。
玄関を開ける直前まで、手は繋がれたままだった。
「ただいま。」
リビングに向かって声をかける。
パタパタとスリッパの音がして母の明るい声が聞こえる。
「お帰りなさーい。
待ってたのよ。遠路はるばるようこそ。」
満面の笑顔でテンション高く玄関に駆けつけてきた。
「始めまして。先日はお電話で失礼しました。結城と申します。」
頭を下げる。
「まぁ。イケメン!!
お母さん緊張しちゃうわ。
どうぞ中に入って下さい。
小春も良く帰ってきてくれたわ。おかえりなさい。疲れたでしょ?」
ニコニコ顔で家の中に招き入れる。
修哉さんと見合わせて入るように促す。
「お邪魔します。」
綺麗な動作で靴を抜いで入って行く修哉さんの後を私も急いで後に続く。
リビングでは小さな弟と義理の父、隆さんが遊びながら待っていた。
「わーい。小春ねぇねだ。」
私を見つけて一目散に走ってきた。
一年見ない間にまたら背が伸びてちょっとお兄さんになったなぁ。
私に抱きつこうとする手間で、修哉さんが目に入り急に失速する。
急いで母の後ろに隠れてモジモジし始める。
「こんにちは。
君がヒロくんだね。よろしく。」
動物クッキーを差し出し、目線をひろくんに合わせるように屈んで優しく頭をなぜる。
「あ、ありがとう。」
小さな声で言ってまた隠れる。
「ごめんなさいね。人見知りなの。
少し一緒に過ごせば慣れるはずだから。」
「いえ、泣かれないだけいい方なので。」
修哉さんが苦笑いしながら言った。