クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
あの頃、彼女は確か夢があったはずだ。
『東京に出て美容師になりたい。
芸能人のヘアアップアーティストとか、そんな感じの仕事をしてみたい。』
と、キラキラしながら話していた。
この世界に入ってみて分かった事。
彼女が夢みた様な、煌びやかな世界では決して無いと。
むしろドロドロして、ギラギラした人の意味私欲に溢れ、心が切り刻まれ押し殺され、使い物にならなくなったら途端に捨てられる。
そんな世界だ。
何かあったんだろうか。
お人好しで流されやすい彼女の事だ。
優しさと、思いやりと、人を善としか見ない様な、すぐに人を信じ、疑う事の知らない彼女の事だ。
何かあったに違いない。
もっと早く会えれば良かった。
会いたかった。
会っていたら絶対守ってやれたのに。
後悔の念に押し潰される。
でも、
焦ってはダメだ。
怖がらせるだけだ。
せめて、信頼を得るまでは決して触れてはいけない。
心に誓う。
今日の事を思い出した。
少し強引過ぎただろうか?
逃げられるのが怖くて、咄嗟に手首を強く掴んでしまった。
震えていた。
何やってるんだ俺。
こんなんじゃまた、逃げられる。
あーー。凹む。
頭の中が彼女でいっぱいだ。
こんなんじゃ、曲なんて作れない。
修哉は頭をガシガシと掻きむしり、
髪を振り乱してピアノに突っ伏した。