クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜

あの頃、彼女は確か夢があったはずだ。
『東京に出て美容師になりたい。
芸能人のヘアアップアーティストとか、そんな感じの仕事をしてみたい。』
と、キラキラしながら話していた。

この世界に入ってみて分かった事。
彼女が夢みた様な、煌びやかな世界では決して無いと。

むしろドロドロして、ギラギラした人の意味私欲に溢れ、心が切り刻まれ押し殺され、使い物にならなくなったら途端に捨てられる。
そんな世界だ。

何かあったんだろうか。

お人好しで流されやすい彼女の事だ。
優しさと、思いやりと、人を善としか見ない様な、すぐに人を信じ、疑う事の知らない彼女の事だ。

何かあったに違いない。

もっと早く会えれば良かった。
会いたかった。
会っていたら絶対守ってやれたのに。
後悔の念に押し潰される。

でも、
焦ってはダメだ。
怖がらせるだけだ。

せめて、信頼を得るまでは決して触れてはいけない。

心に誓う。

今日の事を思い出した。

少し強引過ぎただろうか?
逃げられるのが怖くて、咄嗟に手首を強く掴んでしまった。
震えていた。

何やってるんだ俺。
こんなんじゃまた、逃げられる。

あーー。凹む。

頭の中が彼女でいっぱいだ。
こんなんじゃ、曲なんて作れない。

修哉は頭をガシガシと掻きむしり、
髪を振り乱してピアノに突っ伏した。
< 15 / 172 >

この作品のキーワード

この作品をシェア

pagetop