クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
ふーっと呼吸を整える。
修哉さんから離れて涙を拭く。
ふふっと照れ笑いしながら、
「お客様、お席にご案内します。」
まるでごっこ遊びをしてるようで、くすぐったい気持ちになる。
「こちらにどうぞ。」
修哉さんもほっとした顔で従ってくれる。
「本日はどのような髪型をご希望ですか。」
鏡越しに話しかける。
「お任せでお願いします。」
「えっ!
お任せなんですか?本当に⁉︎」
動揺して思わず素に戻る。
笑いながら修哉さんが言う。
「小春のやり易いように、好きな感じでいい。」
「でも、なんかそう言うの緊張しちゃいます。変になっちゃったらどうしましょう。
社長に怒られちゃう。」
「はははっ。何で社長?」
修哉さんが笑うけど、だって社長の、いや世の中のファンに対して冒涜にならないだろうか。
「だって、
修哉さんはみんなの『YUKI』ファンの為の修哉さんでもあるわけで、私の一存で決めてしまっていいんでしょうか?」
「俺はいつも、小春の為の俺で在りたいんだけど」
不服そうな顔で言う。
そうは言っても芸能事務所に所属する身として、髪型と言えども勝手にどうこうしちゃっていいのだろうか?
「ちょっと剣持さんと相談してみましょうか?」
「小春、落ち着いて。
この長髪でも何にも言わなかったんだから問題ないだろ。むしろこの髪じゃなきゃ喜ばれるだろ。」
「そうなんですか?私的には長髪も似合ってるから切り難いんですけど…。」
櫛でといでみる。さらさらして真っ直ぐで触り心地がいい。
ちゃんと修哉さんの髪触れたの始めてかも。
中学の時、一度でいいから触ってみたいなぁって思ってたんだよなぁ。
あの頃の修哉さんは今よりもっと尖っていて近付き難いイメージで、
今こんな近くに居られる事だって奇跡なんだ。
「修哉さんに…先輩にずっと憧れていました。あの頃こんな風に近づく事すら恐れ多い気がしてたのに。」
「そんなの、俺の方こそだよ。
小春に、神聖な物に、触れちゃいけないって、バチが当たるって、ずっと我慢してたんだ。」
不貞腐れながら言う感じが可愛く思う。
「こんな事になるなら、早く触れておけば良かったってどんだけ後悔したと思ってるんだ。」
会えなかった10年の間、ずっと後悔してくれてたんだ。
「また、泣きそうです…
どれだけ私を泣かせたら気が済むんですか?先輩」
久々の先輩呼びが懐かしく思う。
「何で先輩呼び?
もう何でもいいから早く切って、腹減ってきた。」