クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
そんなふうに思い悩み5日目。
日が経つにつれ今度は遅いと怒られそうで怖くなってきた。
いざ電話しようと構えると、ドキドキして手が震えてしまう。
目をつぶってえいっと、勢いに任せて通話ボタンを押す。
呼び出し音が3回鳴る。
5回鳴っても出なかったら切ってしまおうと、決心が鈍ったその時。
「はい。」
バリトンボイスの低く響く良い声が聞こえて、心臓がドキンとはねて体が硬直する。
「…もしもし、小春?」
固まって声がなかなか発せない。
「…はい。先輩、ですか?今お時間大丈夫でしたか?」
小春は恐る恐る話しかける。
ふーーっとため息が聞こえてきて、
「…5日かかったな。」
と、ぶっきらぼうに言い放なつ。
怒られるかもと小春はますます緊張する。
「ごめんな、押し付けがましく番号渡して、後から悩ませたんじゃないかって気になってた。」
あれ。怒られると思ったのに謝られて拍子抜けだ。
「あの…。お電話遅くなってごめんなさい。」
「いや、かけてくれて、ありがとう。」
あれあれ。
先輩が優しい。
あの頃の先輩だったらきっと
不機嫌に沈黙が続く中、謝り倒すしか無いって言う感じだったのに、10年経って丸くなったのね。
「…いろいろ時間帯とか気にしちゃって、
今、仕事中ですか?大丈夫でしょうか?」
「自由業みたいなもんだから、そんな事気にしなくていい。
小春は?今は休み時間?」
なんだろう。ほんとに先輩?
優しすぎて涙が出そう。
緊張の糸が緩んでつい、はぁーとため息をもらす。
「どうした?疲れかるのか?」
「いえ。先輩が優し過ぎて…、
てっきり、電話が遅いって怒られるんじゃないかと思ってたので。」
慌てて本音を言ってしまう。
「…どんだけ怖がらせてたんだ俺…」
はぁーと今度は修哉がため息をつく番だった。
「いつ。会える?
比較的、今は自由に動けるから、
小春の空いてる日に合わせるよ。
なんなら、弁当屋の前で待っててもいいし。」
優しく話しかけてくる先輩の声は、ずっと聴いていたいくらい穏やかで、心を宥める様でホッとする。
「いやいや、ダメです。
先輩を待たせるなんて出来ません。
バチが当たっちゃいますから、待つのなら私が待ちます。」
「なんにバチが当たるんだよ。
ハハハ…。
小春と話してると日が暮そうだ。
…このままずっと話してたいな。」
と、修哉が独り言のように呟く。