クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
あの頃の先輩もお父さん気質な所があり、
暗くなると決まって送っていくと言って、
断っても絶対言う事を聞かなかった。
あの頃、先輩は地元では結構有名人で一緒に歩いていると目立って困った。
ある時、女子の先輩数人に呼び出され、
『私達の修哉君を独り占めしないで!』
と言われた事もあった。
怖かったけど、勇気を振り絞って、
『先輩は誰の物でも無いと思います。
私から誘った訳では決してないので、
文句があるなら本人にお願いします。』
とだけ言って猛スピードで逃げた。
陸上部で短距離をやっていたし、足には自信があった。
その後も何か呼び出しがあるんじゃないかと、内心ビクビクしていたが特になく。
陰で何かコソコソ言われてそうだなぁって思ったぐらいだった。
そんな事を知らない先輩は、
私を見かけるとたびたび話しかけてくるようになって、
気づけば部活の無い水曜の放課後は決まって、音楽室で先輩の弾くピアノを聴きながら宿題をやってたり、たわいもない話をして過ごすようになった。
そんな事を思い出しながら歩いていると、
「何、笑ってるの?」
先輩が怪訝な顔で聞いてきた。
「先輩ってなんかお父さんみたいな所ありますよね。
昔からすごい心配症。」
「…それは、…小春にだけ限定だ。」
小春は恥ずかしくなって頬が赤くなるのを感じ、下を向く。
なんだか今日の先輩は変だ。
いや、再会してからずっとかも。
ストレートに自分の心を隠しもしないで見せてくる。
昔はこんな人では無かったのに、
と、思う。
私の話ばっかり聞いて、自分の事はあまり話してくれなかった。
心の中を見せてもくれず、高い壁を感じていた。
送ってくれた日の帰り道はいつも寂しくなった。
「小春、下ばっか向いて歩いてると危ないから、下向いて歩きたいんなら、俺の手握って。」
突然、目線に先輩の大きい手が出されて
ドキッと小春の心臓は跳ねた。
おもわず先輩の顔を見上げ、足を止める。
「せっかく小春に会えたのに、さっきからずっとつむじばっかりだ。」
拗ねたように、寂しそうに笑う。
「せ、先輩の背が高いせいです。」
負けずに拗ねてみせる。
「早く。」と言って手をひらひらさせる先輩の手に勇気を出して、
自分の手を乗せてみる。
瞬時にぎゅっと握られて、先輩は再び歩きだす。
心臓がドキドキ高鳴る。
どうしよう。
これじゃあ。心臓がいくつあっても足りない。