クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
戸惑いながら、先輩の後ろを引っ張られるように歩く。
「…あの頃も、本当はこんな風に歩きたかったんだ。
怖がられそうで言い出せなかった。」
えっ。そんな風に思ってたなんて、びっくりする。
全然分からなかった。
むしろいつも歩幅の広い先輩の背中を、早歩きで必死についていった気がする。
あっ。でも荷物が多いとさりげなく持ってくれたなぁ。
また、ふふっと微笑む。
また、笑った。
と修哉は思う。
今日はよく笑ってくれる。
再会した日、怯えさせて怖がせたのを自覚してるから、心配だったが、
良かったと、安心する。
でも、握った手がとても細くて、小さくて、
力を入れ過ぎると折れそうで怖い。
そして、心配になる。
「小春、夕飯は?この後食べるのか?
いつもいつ食べるんだ?」
また、お父さんみたいと言われそうだが、こればっかりは辞められない。
「帰ってから食べる時もあるし、
疲れたりしたら食べないで眠る日もあります。私、元々少食なんで大丈夫なんです」
心配されないように。
先輩に向かってニコッと微笑む。
「後、コンビニで賞味期限切れのお弁当とか内緒でもらえるんです。
お弁当屋さんでも余ったのとか、たまにもらえるんですよ。」
修哉の心配を消すように、楽しそうに言う。
「ちゃんと食べて。
折れそうで、倒れそうで、心配になる。」
「…はい。」
素直に頷く。
それから、ポツリと修哉が話しだした。
「…卒業してから俺、
中学に行ったんだ。夏休みに。
小春に会いたくて。
いくら待っても電話くれないし。」
繋いでいる彼女の手を軽くぎゅっと握る。
「小春も引越しだんだな。
全然知らなくて。
小春の家の近くも行ったんだ。」
「言わなくて、ごめんなさい。
言えなかったんです。言わない方がいいと思ったから。
先輩にはきっともう会う事は無いと思ってたから。」
そうだったんだ…あの時、
ちゃんと電話すればよかった。
先輩に悪いことをしてしまったと落ち込み、俯く。
「別に怒ってる訳じゃない。
自分に腹が立っただけ。
もっとちゃんと繋ぎ止めておけば良かったって。
後悔したんだ。」
赤信号で2人足を止める。
修哉がこっちを見る。小春は思わず目線を合わせる。
時が、止まる。
「小春…
小春が、好きだ。
今も昔もこの気持ちは変わらない。」
唐突に、だけど揺るぎない声で、静かに修哉が告げた。
言葉を失う。
嬉しい。
あの頃の私だったらどんなに嬉しかったか。
でも、今の、何も無い私は先輩とは釣り合わない。
きっと先輩はあの頃の私の幻想を見てるだけ。今の私を知ったら幻滅すると思う。
先輩の為にも言わなきゃ。
私の事なんて忘れて前に進んで欲しい。
信号機が青になる。
修哉は手を引っ張って無言で渡る。
渡り終えて歩道の隅に小春を連れて行く。
ちょうど腰かけらる高さのガードレールに腰を下ろし、目線をあわせる。
小春の手をずっと離さない。