クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
大通りの角を曲がると、閑静な住宅街に入った。
路地角でふと、止まる。

「ここで大丈夫です。この道真っ直ぐなので、ありがとうございました。」

ペコリと頭を下げる。

「…あの。先輩、手を…離してください?」
逆に修哉はぎゅっと握る。
えっ。と、首を傾げる。

「ヤダ。家の前まで送る」
修哉は手を引っ張って歩きだそうとする。

戸惑い、慌てて言う。
「えっと…。私のアパートすごく古いので…きっと、先輩の心配症が発動しちゃう。
…ので、ここで大丈夫です。」

困り顔で懇願するよう、躊躇いがちに見上げる。

「俺は10年前と同じ間違いはしない。」

確かにあの頃も、家の前まで送ってもらう事がなんとなく恥ずかしくて、
近くの道でさよならした。

「約束する。
何も言わない。
小春が家に入ったの確認したらかえるから。場所、知りたいだけだから」

引きづられるように歩き出す。

こう言う時の先輩は誰も止められないと思う。

「…ここです。」
なんか恥ずかしいと思いながら、
遠慮がちに足を止める。

佇まいはザ・昭和という感じの古びたアパートだ。
ただ中はリノベーションして小春としては好きな感じなのだが、
修哉の目を見ると何かいいたそうな、目で何か訴えてくる。

頬を膨らませながら、
「何にも言わないって約束ですよ!」
 
きっと、防犯面が、とか1人だと危ないとかいろいろ思ってそう。

「…中学の時、母親と住んでたアパートみたいだ。嫌な思い出しか無い…」
抑え気味にそう言って、

「小春、スマホ出して」
繋いでない方の手を出す。

言われるままに急いでスマホを出す。

「ロック解除して」
ロック解除して、急いで修哉の手に渡す。

はぁー。っと修哉はため息を吐いて

やっと繋いでた側の手を解いて自分のスマホを何やら操作し、小春のスマホを戻す。

「メール繋げといたから、これであれこれ悩まず、夜中でも連絡して」

ぶっきらぼうにそれだけ言うと早く家に入るように促す。

「ありがとうございました。おやすみなさい。」
それだけ、言って急いで2階の階段を登り角の部屋の前で一度修哉に手を振ってから、鍵を開けパタンとドアを閉めた。


それを確認してから、修哉は頭を抱えて 
はぁーと深いため息をついた。

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