クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
「始めて座りました。ペアシート」

丸い卵型シートがポツポツと並び、うまい具合に中が見えない。映画館にこんな場所があったなんて今で知らなかった。

「俺も初めてだ。」
なんでも知ってそうな先輩と初めてを思いもよらず分かち合えて、嬉しい。

ふふっと笑って座ってみる。ふかふかのソファみたいに座り心地もいい。

「いいな。小春を独り占め出来る」 
ニコッと笑って小春の手を恋人繋ぎで握る。

ドキッと心配が跳ねてなんとなくソワソワしてしまう。
えっと、ずっともしかしてこの感じ?
私大丈夫かな。先輩のせいで心配壊れそう。

店員が来て飲みものを注文する。
そんな時でさえ、先輩は手を離してくれない。


修哉は厳禁なものだと自分でも思うが、
抑えてた気持ちが解放され、もはや自分を止める事もせず、困っているだろう小春が、可愛くて仕方がない。

あのセクハラ野郎に会ってから、自分も同じじゃないかと気持ちが沈んでいた。
それを小春がいとも簡単に引き上げてくれた。
どんだけ自分は小春に振り回されてるんだと呆れるが、それすらも嬉しく思うなんて俺も大概だな。

よくある恋愛映画が始まり、照明が落とされる。修哉はもはや映画なんてなんだっていいとさえ思う。
小春が隣にいる事で満足だ。

それでも感情豊かな小春はめそめそ泣き出した。急いでハンカチを出して渡す。

もう、泣かせたくない。
どうにかしてセクハラ野郎に近づかせないようにと、映画もそっちのけで修哉は思考を巡らせていた。


映画の最後は、恋人が亡くなるというバッドエンドで終わる。
泣き止まない小春の頭をポンポン優しく撫でていると、エンディングソングが流れ始める。

あれっと思う。

忘れてた。
この映画、この前主題歌頼まれて提供するって、剣持が言ってたやつだ。

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