クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
「ありがとうございます。朝早くからすいません。」
剣持は頭を下げながら靴を脱ぎ「お邪魔します」と言って入ってきた。

「さすが小春さん。
修哉って朝がちょー低血圧なんでいつも機嫌わるいんですよね。小春さん居てくれると穏やかに過ごせそうです。」
小声で嬉しそうにそう言いながら通り過ぎた。

パンだけじゃ味気ないと思い、冷蔵庫を覗くとビールと炭酸水ぐらいしか入ってない。

「ごめんなさい。買い物してなくてパンぐらいしか無いんですけど」

「小春、こいつは客じゃ無いから気にしなくていいんだよ。」
コーヒーを2つ運びながら修哉が言う。
「お前は飲みたきゃ自分で淹れろ」
剣持に言う。

「了解です。頂きます。」
剣持さんの扱いが雑だなぁと思いながら、困り顔で「私がやります。」とカップを手にスイッチを押す。

「ありがとうございます。小春さん先に2人で食べててください。自分は高速で食べれるんでお気になさらず」
修哉さんの塩対応にまったく動じず。打たれ強いなぁと感心する。


それから3人で急いで朝食を食べて、剣持が乗ってきた、大型バンで出かける。

後部座席に2人は座る。

「今日は9時からラジオ収録なんです。」
剣持が言う。

「そうなんですね。ラジオって良く出るんですか?」

「まさか。初めてです。
顔出ししない分、CDの番宣が難しかったんですけど、ラジオならオッケーが出たので。」

修哉がすかさず言う。
「オッケーなんて出してないよ。
お前が勝手に決めたんだろ。」

「自分、ちゃんと承諾しましたよ。取引したじゃ無いですか。」

確か、小春のストーカー野郎を探る為に依頼した時、一つだけ願いを聞いてやるって言った奴だよな。

はぁ。まさかあの取り引きがラジオとはな。

仕方ないとは思うが小春に知られたら気にするから話すなよ。

剣持に目で合図する。

慌てて剣持は話を変える。
「小春さんは今日は5時でおわりですか?時間大丈夫だと思うので迎えにいきましょうか?」

「いえいえ。とんでもないです。帰りはタクシーで帰るので私の事は気にしないで下さい。」
慌てて言う。これ以上、剣持さんのお世話になるのは申し訳ない。

「そうですか?じゃあ。買い物とか何かお手伝い出来る事があれば言って下さい。」

「夕方に食材買いに行こうと思ってるので大丈夫です。」
丁寧にお断りする。

「1人で買い物は危ないんじゃないですか?」
剣持が心配する。

修哉も1人はあり得ないと思うが、剣持と小春がこれ以上仲良くなるのも腹が立つ。

「6時過ぎには帰るから俺が一緒に行く。
家で待ってて。」

「修哉…まだ2曲残ってるんですよ。」
剣持が怪訝な顔で言う。

「大丈夫だ。頭の中には出来てる。今日1曲完成させる。」

小春は心配顔で言う。
「無理しないで下さい。私1人でも大丈夫です。だって、この街にいる事は知らないはずだし」

「ダメ。夕方1人で出かけるの自体危ない。」
過保護過ぎる気がするが、修哉にこれ以上の心配はかけたくない。

「そうですよ。小春さん可愛いんだから気をつけないと。今までスカウトとかされた事無いですか?こっちの業界人だったら絶対見逃さないと思います。」 

剣持の意見も大げさだなぁと思うけど、知らない人に話しかけられる事は今までなくも無かったので、気をつけなくちゃと思う。

「…修哉さんが帰ってくるの待ってます。」
2人の圧に負けて、大人しく従う事にする。
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