クールな歌手の揺るぎない思い〜この歌が君に届きますように〜
彼女が飛び込んだエレベーターが閉まる直前。一瞬早く男の手が扉に入り込んだ。
「待って。小春!!」
男は扉をいとも簡単にこじ開け、1階のボタンを押した小春と共にエレベーターに乗り込んだ。
驚き、鏡の壁まで素早く逃げる。
あっ。
どうしよう。怖い。
顔を手で覆い下を向く。
男は走った為に切れた息を吐きながら、
「小春。こっち見て。
俺の事。…解らない?」
恐る恐る顔を上げ、顔を隠した手をそっと外し目の前の男を見上げる。
思ってたより近い男との距離に心臓はドキドキと高鳴るけれど、
男は先程と違い、
今にも泣きそうな、
懇願するような表情でこっちを見ていた。
少しの沈黙の後。
息が整った男は、静かに言う。
「結城 修哉。覚えてる?俺の事。」
目を見開く。信じられない者を見たかのように固まる。
「……先輩」
元々、透明感のある白い肌がいっそう白く、血の気がひいたように見える。
さっき不意に掴んだ手首の細さを思い出し、修哉は急に心配になった。
「小春、元気だった…?」
まったく元気には見えない小春。
あれこれ聞きたい気持ちもあるが、これ以上彼女を怖がらせてはいけないと、
自分の気持ちを抑える為に
ふーーっと深く深呼吸をして、
静かに話しかけた。
また迷う。
とっさに声を出し先輩と呼びかけてしまったけれど、私はもう。あの頃の私じゃない。
この場に、この人といてはいけない。
いろいろな気持ちが一瞬で頭を駆け巡る。
先輩だった。
確信したとたん。
やっぱりと、思う。
マネージャーらしき男が『修哉』と呼んだ時、一瞬頭を掠めた記憶。
まさかと思って気付かないフリをした。
気付いてはいけないと警告音がした気がした。
それと同時に、
先輩はあの、『YUKI』だと確信した。