さよならの向こうにある世界

 この時の私の心臓はというと、鼓動を早め痛いくらいに跳ね上がっていた。それも無理ない話だと思う。昔好きだった人が突然目の前に現れて、さらには私のことを心配してくれているのだから。胸に手を当てると改めて思う、私はこの人が好きだったんだ。元気になったらこの想いを伝えようと、そう思っていたのにそれは叶わなかった。

 どうして叶わなかったのか——。そうだ、私は彼に聞かなくてはならないことがある。心臓の音がドキドキという弾むような音から、ドクドクという緊張感のある音に変わっていく。

 これから投げかける問いに彼がどういう反応をするのか、その答えを聞くのが正直とても怖い。だからきっと私の心臓は音色を変えたのだろう。それでも聞かなくてはならない、そんな気がする。聞かないことには、きっとこの先何も変わらない。

 身体全体に流れる冷や汗を感じながら、両手にグッと力を入れる。大きく息を吸い込むと、言葉は自然と流れ出た。

 「——碧斗君はさ、もう生きてないよね?」

 なんとなく『死ぬ』という言葉は避けた。その言葉はあまりにも残酷で、今はまだそれを受け入れる勇気が私にはなかったから。

 「うん、そうだね」

 返事をくれた彼は生前の彼を思い出させるような笑顔を作った。一瞬だけ寂しそうな顔をしていたように見えたけれど、その笑顔が全てを打ち消した。
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