さよならの向こうにある世界

 結局金髪たちは、「だるいわ」と言いながら何も買わずに出ていった。彼らが帰ると店は一気に静けさを取り戻し、私たちは三人で顔を見合わせた。そして三浦さんが「ありがとうございました」と頭を下げたので、私も同じように礼をした。彼は「いいえ」と言いながら、レジに置かれた三十番のタバコを見て顔を一瞬しかめたけれど、特に何も言わずに財布から現金を取り出した。

 ここで「タバコ違いますよね?」なんていう応用を利かせられる私ではないので、お菓子の品出しをするためバックルームに行こうと彼に背を向けた瞬間、目の前におじいさんが現れて思わず足を止めた。——いや、止まってしまった(・・・・・・・・)

 このおじいさんは生きていない(・・・・・・)。そう、先ほど後光の差していた彼といつも一緒にいる幽霊だ。おじいさんとは言っても、ものすごく元気そうである。霊に対して『元気そう』というのも変な話だけど、本当にそうなのだ。来店するといつも店内を一人でうろついて商品を物色し、主のお会計が始まると必ずレジに来る。まるで夫婦で買い物に来て妻がお会計をしている間は店内をふらふらとして、お会計が終わりそうになると荷物を持ちにレジまでやって来る夫みたいである。

 私がおじいさんを認識したことがバレてしまわないように、慌てて左足のつま先をトントンと二回床に当てて、ずれた靴を履き直す振りをした。ドキドキと心臓が音を鳴らし、先ほどよりも多い汗が手のひらに滲んだ。するとおじいさんは私の方を不思議そうに見てから、何も言わずに私を避けるようにしてスーッと横を通ってレジへと向かった。それを確認してから何も気づいていない素振りを貫き、一目散にバックルームへと駆け込む。
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