財界帝王は初恋妻を娶り愛でる~怜悧な御曹司が極甘パパになりました~
 クリーム色のウエストで結ぶコートの上から、バッグにしまっていたフェイクファーのブラウンのマフラーを出して首に巻く。

 三人で駅に向かって歩いていると、侑奈が急に立ち止まった。

「どうしたの?」

「あそこに()(だま)()()()がいるわ。近くで何度か見かけたことがあるけれど、あのマンションだったんだ」

 侑奈が道路の向こうを示す。白いおしゃれな低層マンションのエントランスにブラックパールの高級外車が止まっており、その横に女性が立っていた。細身で身長が高く、腰まであるストレートの黒髪が艶めいている。

 大きな円いサングラスをしているが、ガラスの色が薄いので彼女だとわかり芸能人オーラがハンパない。

 小玉奈緒美は今人気の雑誌モデルで、そんな彼女を目にして驚いたが、さらに驚いたのはそこにいた男性だった。

 五年前に亡くなった私の兄の親友、(きょう)(ごく)(かず)()さんだ。道路を隔ててだから見間違いってこともあるし、スラリとした体躯の男性なんていくらでもいるが、京極さんのような端整な顔は芸能人でもなかなかいない。

 京極さんは兄が亡くなったあとも時々元気か連絡をくれ、年に数回食事にも連れて行ってもらっている。最後に会ったのは、去年のクリスマス前だった。

 なにより彼は私の憧れの人なので、遠くからでもわかる。

 京極さんは小玉さんと笑っている。それから彼女が京極さんに顔を近づけようとした。
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